かかりつけ薬局・かかりつけ薬剤師への期待

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2022年01月11日

同じ処方箋でも、薬の受け取り方によって患者の費用負担が異なることをご存じだろうか。受診した医療機関で受け取る院内処方の方が、調剤薬局で受け取る院外処方よりも支払う金額は低い。また、同じ院外処方でも、大病院などの近隣に立地するいわゆる門前薬局や大型チェーン薬局では、それ以外の薬局で受け取るよりも低額になるケースが多い。なぜこのようなことが起こるのかというと、保険調剤薬局での処方に対する報酬の体系が、院内処方とはまったく異なるからである。

2020年度の調剤医療費は7.5兆円に達しているが、そのうち薬剤料(薬そのものの値段)ではない技術料がその約4分1を占めている(※1)。調剤薬局が受け取る技術料は、薬局の運営維持費を評価する「調剤基本料」(現在、技術料の約3割を占めている)、調剤の技術を評価する「調剤料」(同約5割)、患者への服薬指導や情報提供を評価する「薬学管理料」(同約2割)で構成されている。

例えば、院内処方の場合、調剤料は低額かつ定額で設定されているが、調剤薬局の場合には剤数や処方日数に比例して高くなる仕組みになっている。その結果、院外処方と院内処方には技術料に約3倍ものコスト差が生じている。また、調剤基本料は、処方箋受付回数が多く特定の病院の処方箋が集中している度合いが高い薬局ほど在庫コストなどがかかっていないはずであることを考慮し、低く設定されている。そのため、同じ院外処方でも薬局によって支払額が違ってくる。

たしかに、患者ごとに異なる症状に合わせて最適な薬を処方するには、薬の発注や在庫管理を薬局が一手に担う方が合理的であり、薬剤師に医師とは異なる薬学上の専門性を求める仕組みは必要だろう。また、在宅医療をサポートしたり、夜間・休日の調剤対応を行ったりするような地域に密着した業務も薬局には期待されている。その点、利用者数が非常に多く、必ずしも地域と連携した経営を行っているわけではない門前薬局などの報酬を低く設定することは、医療費の伸びを抑制する上でも重要だ。

だが、84.4%もの保険薬局が、最も点数の高い調剤基本料を届け出ており(2018年度末時点)(※2)、医療モールに付随している薬局など門前薬局であっても高い報酬を得ている、すなわち患者の窓口負担が低くなっていないケースも結構あるようだ。私たちは薬代以外に、服薬に関する指導なども含めて薬局や薬剤師の技術やサービスに対して年間約1.9兆円を支払っている。それに見合う価値が十分に提供されていると多くの人が実感しているだろうか。

そもそも院外処方には、薬剤師が患者の薬歴を見て重複投薬や相互作用の有無を確認したり、薬学的知見に基づいて薬の効果、副作用、用法などを患者に丁寧に説明(服薬指導)したりすることが期待されている。患者の薬に関する理解が深まれば適切な服用につながり、治療効果が高まるからだ。住み慣れた地域で治療を継続する患者の増加が見込まれる中、患者の服薬状況やアレルギー歴などを把握して患者ニーズに応える、かかりつけ薬局やかかりつけ薬剤師に求められる役割は大きい。

しかしながら、現状の技術料の構造を見る限り、そうした対人業務に対する報酬に相当する薬学管理料の割合は小さく、調剤薬局は対物業務中心のビジネスを行っている(※3)。今後の薬局や薬剤師には、薬中心の業務に対する報酬に依存するのではなく、患者中心のサービスで付加価値を生みだす方向にシフトしていくことを期待したい。同時に、患者の側も薬局や薬剤師が提供するサービスの対価として、保険料や窓口負担でいくら払っているのか、これまで以上に意識していく必要があるだろう。

(※1)厚生労働省「調剤(その2)について」中央社会保険医療協議会 総会(第492回)資料(2021年10月22日)
(※2)厚生労働省「令和2年度診療報酬改定の概要(調剤)」(2020年3月5日)
(※3)かかりつけ薬剤師指導料やかかりつけ薬剤師包括管理料、重複投薬・相互作用等防止加算、外来服薬支援料など、対人業務を評価する仕組みは整備されてきたが、こうした項目の算定回数は少なく、対人業務を行わなくても対物業務だけで経営が十分に成り立つ報酬制度であることが問題と指摘されている(厚生労働省 中央社会保険医療協議会 総会(第483回)議事録(2021年7月14日))。

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 石橋 未来