目前に迫る、RCEP発効~そのメリットと課題とは?~

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2021年12月20日

2022年1月1日、アジア太平洋地域初のメガEPA(経済連携協定)である、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効する。2020年11月、同協定は15カ国の間で署名されたが、まずは国内批准手続きを終えた日本、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、ラオス、ニュージーランド、シンガポール、タイ、ベトナムの間で発効することとなり、それ以外の5カ国(インドネシア、韓国、マレーシア、ミャンマー、フィリピン)においては国内の批准手続きを終えた後の発効となる。国軍が提出した批准書を認めるかでその取扱いが難しくなっているミャンマーを除けば、2022年1月1日時点で未発効の4カ国についても、2022年の早い段階で発効となるだろう。

日本企業にとって、RCEP協定によるメリットは大きく分けて2点ある。1点目は、日本・中国・韓国間の初のEPAとなることである。関税削減・撤廃の効果を両国への輸出規模と関税削減率の大きさで見ると、日本から中国向けの輸出においては、自動車部品や鉄鋼製品、プラスチック及びその製品を中心に、そして韓国向け輸出においては、プラスチック及びその製品を中心に恩恵を受けやすくなる。その中でも特に、日本から中国へ輸出される自動車部品に対する関税の一部が、発効1年目から段階的に削減される影響は大きい。さらに、関税メリット以外に目を向けても、日本・中国・韓国の市場がRCEP協定でつながる効果は大きい。ASEAN地域に進出した日本企業が、日本から部品を輸入し、ASEAN国内で組み立て、それを中国に輸出する場合がその一例である。日本から輸入した部品が原産地規則(RCEP協定に加盟している国の原産品として認められるための要件)を満たすものであれば、それがそのまま当該ASEAN国での原産材料として認められることから、そこで加工された最終財が原産地規則を満たしやすくなり、RCEP協定を使って中国に輸出できるという仕組みである。日本から輸入する部品は高付加価値であるものが多いため、それが当該ASEAN国での原産材料と認められる点には意義があるだろう。

2点目のメリットは、RCEP協定を利用する場合、輸出や投資に関するルールが共通となることである。これまでアジア地域では多くの2国間FTAが締結されてきた。しかし、これらのFTAはそれぞれのルールや手続きが異なることから、国境を越えて生産拠点を展開する企業にとって利便性に欠けることもあった。JETROが毎年実施している「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」を遡って見ていくと、FTAを利用しない理由として、原産地規則に関する手続きが煩雑であることやコストが高い点が多く指摘されてきた。RCEPの発効で域内のルール・手続きが共通化されることは、このような障害を取り除き、ビジネス上の利便性を高めるものと期待できるだろう。

このように、RCEP発効による効果に期待は高まるが、発効そのものはゴールではない。実際に利用されなければ「宝の持ち腐れ」である。前述のJETRO調査(2019年度)では、FTAを利用しない理由を問われた際に「FTAの制度や手続きを知らない」という声が一定の割合を占めた。その回答割合は、大企業よりも中小企業の方が高い。RCEPの発効を目前に控え、政府は国内企業・生産者に向けて、RCEPの制度・手続きを丁寧に周知することが、中小企業を含めた企業の海外進出の一助ともなるだろう。

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増川 智咲
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 増川 智咲