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岸田政権の新しい資本主義と東証再編の整合性

2021年12月08日

政策調査部 主任研究員 神尾 篤史

岸田政権の政策の基盤となる考え方である新しい資本主義とは、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」を実現することであるという。この名称を冠した「新しい資本主義実現本部」が設置され、「新しい資本主義実現会議」も開催されており、現政権の意気込みを感じる。

これらに関する報道では、成長に向けた政策よりも分配政策が強く注目されており、成長に向けた施策の存在感が薄い印象を受ける。しかし、11月8日には新しい資本主義実現会議でまとめられた「緊急提言~未来を切り拓く『新しい資本主義』とその起動に向けて~」(以下、提言)が公表され、労働分配率向上に向けて賃上げを行う企業に対する税制支援の強化、人的資本への投資の強化などの分配戦略だけではなく、科学技術立国の推進、経済安全保障、スタートアップ企業への支援などの成長戦略も明示されている。スタートアップ企業への支援では、それらの創出・成長発展に向けた環境や制度の整備について言及されており、東京証券取引所に関連する分野では新規株式公開プロセスや特別買収目的会社(SPAC)制度の検討についての記載がある。

この岸田首相肝いりの政策である新しい資本主義と東証再編の整合性について、筆者はマスコミ関係者から見解を問われたことがある。整合性がないという印象があるとすれば、報道が分配政策に関連するものに偏っており、東証再編が提言で触れられていないからであろう。ただ、東証の新市場はその構造と制度が既に固まっており、あとは来年4月からの開始を待つばかりである。一旦は新市場に関する企業の動きを見守る必要があり、さらなる改革を今回の提言に含めることは時期尚早である。そして、新しい資本主義と東証再編に整合性がないわけではなく、むしろ、東証再編は成長に向けた非常に重要な施策の一つであると思われる。

というのも、再編後の東証に上場する企業はその競争力の向上に継続的に取り組まなければならない動機を強めざるを得ないからである。今回の東証再編に関しては、新たに創設されるプライム市場の上場企業数が現在の市場第一部と大きく変わらないという予想があるなど、ドラスティックな改革を想定していた市場関係者の期待に応えてないという意見が散見されることは確かである。しかし、実はこれまでよりも企業が上場を維持することや、グロース市場やスタンダード市場からプライム市場に移行することが難しくなるなど、企業の中長期的な企業価値向上に向けた取組みが欠かせない制度設計になっている。

また、そもそも証券市場は企業が資金調達を行い、投資家が資金運用をする場であり、日本経済の重要なインフラである。多様な企業が資金調達を円滑に行い、事業を拡大させる機会を作り、様々な投資家が投資しやすい市場を目指す今回の東証再編は成長に向けた施策の一つと言っても過言でない。分配政策が注目されがちではあるが、分配をするためには成長し、富を創出する必要がある。新しい資本主義と東証再編は、まさに整合性がとれているものと言えるだろう。

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神尾 篤史

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