コロナ禍で変貌を遂げ得るマンハッタンの不動産事情

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2021年11月18日

ニューヨーク・タイムズ紙によると、米国における新型コロナウイルス1日あたり新規感染者数は約74,000人(7日平均、本稿執筆時点)で、3か月前のコラム執筆時から半減して改善はしているものの、新型コロナワクチン接種が進展していなかった2021年2月中旬の水準と変わりない状況だ。ワクチンの追加接種や5歳から11歳児へのワクチン接種が開始されたが、新規感染者数は再び増加傾向にある。

こうした感染状況のもとで、会社員のオフィス復帰は企業の想定より進んでいないようだ。非営利団体Partnership for New York Cityの調査(※1)によると、2021年10月下旬時点で、NY市マンハッタンの従業員の1日の平均出社率は28%(週5日出社が8%、週4日:10%、週3日:12%、週2日:8%、週1日:8%)で、54%は週5日の在宅勤務を続けている。オフィス復帰が進まない最大の要因として、企業は新型コロナウイルスの感染状況を挙げている。同調査によると、企業は2022年1月末までに従業員の1日の平均出社率は49%となる一方、21%は週5日の在宅勤務を続けると予測している。また、47%の企業は、新型コロナウイルス収束後も、一部の従業員が週3日超在宅勤務を継続すると予測し、34%の企業が今後5年間でオフィススペースが減少すると予想している。在宅勤務とオフィス勤務を併用するハイブリッド型勤務は、今後も一定程度継続すると考えられているのである。

今後も続くと予想されるオフィスの空室とは対照的に、マンハッタンではコロナ禍以前の慢性的な住居の空室不足の状況に戻っている。コロナ禍が始まった直後は、多くの人がマンハッタンを脱出したが、現在はオフィスの全面再開に備えているのか、あるいは在宅勤務を続けるものの都市の利便性や魅力を求めているのか、多くの人が戻っている。マンハッタンの空室率は1.65%と低水準で、家賃も上昇傾向にある(※2)。

このような環境の中で、オフィスが撤退あるいは縮小した不動産を、住居に転用しようとする動きが見られる。店舗やオフィスが閉鎖・縮小され人通りが少なくなった地域は、治安の悪化も懸念される。こうした地域が時間をかけて住居へと生まれ変わることで、住宅不足もわずかではあるが解消されるとともに、居住者も増えることで、街も新たな形で活性化するかもしれない。ただし、オフィスから住居への転用には、土地の利用方法に関する規制緩和や家主に転用のインセンティブを与える税制優遇措置などが必要とされている。オフィスと住居が混在するマンハッタンがコロナ禍を契機にどのような変貌を遂げるのか、転用は実現可能なのか、しばらくニューヨーカーの間で注目されるだろう。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬