脱炭素社会の構築に資するエネルギーロスの改善
2021年11月16日
2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では再生可能エネルギーの最大限の導入、主力電源化を徹底することが掲げられた。再生可能エネルギーは自然条件を活かして発電時にCO2等を排出しない発電手法である。この発電量を引き上げるべく、新規住宅に太陽光発電設備の設置を義務化するなど、様々な施策が検討されている。
他方、メディア等では専ら将来的な発電量(あるいは電源構成に占める割合)の高低が議題となっており、基本的かつ技術的な問題に焦点が当たっていないことが多い。本稿では、この一例として発送配電時のエネルギーロスについて考えたい。
まず、どの発電手法でも投入されるエネルギーをそのまま電力へ転換することはできない。発電時にエネルギーの一部が熱や振動として放出されてしまうためだ。例えば、一般的な化石燃料由来の火力発電は、ボイラーへ燃料を投入することで水を熱して水蒸気を生み出し、それが発電用のタービンを回すことで発電(エネルギー転換)を行うが、水を熱したり、水蒸気がタービンを回す際などにはエネルギーのロスが起こる。これらの合計が火力発電に係るエネルギーロスであり、発電の仕組みは違えど、その他の発電手法も同様にロスが生じている(※1)。
また、発電された電力は送電線や変電設備などを経て、工場や住宅等へ届くわけだが、実は発電時と同様、送配電過程で少なくない規模のロスが生じている。そのため、発電所で発電された電力量と消費できる電力量は一致せず、常に「発電量>消費量」の関係が成り立っている。この差分は大きく、例えば事業用電力に係る送配電ロスは1,000万世帯以上の年間電力消費量に匹敵する(※2)。
このように、「エネルギー投入→発電→送配電→消費」といった過程で生じるエネルギーロスは少なくない。日本がカーボンニュートラルを実現するために、再生可能エネルギーの発電量を引き上げることは重要だが、同時に一連のロスを改善することができれば、需要を満たすために必要な発電量の減少を通じて、想定される以上の排出削減効果が得られる。
ただ、エネルギーロスの改善には関連分野の更なる技術開発が不可欠であり、長期的な視点でもって取り組む必要がある。今後、輸送手段や生産工場などの電化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展等により日本全体の電力消費量が増加することは明らかだ。再生可能エネルギーの導入に注力するだけでなく、合わせて電力全般に係る分野への研究・技術開発を、官民挙げて一層進めていくことが求められよう。
(※1)例えば、石炭火力発電の発電効率(発電量/投入エネルギー)は最大55%程度。一般的に、水力を除く再生可能エネルギー発電(太陽光発電や風力発電など)の発電効率は火力発電に比べて低い。
(※2)資源エネルギー庁「2019年度総合エネルギー統計」、環境省「平成31年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査(確報値)」より算出。
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