米国のIPO市場の潮流 ~BCとB Corp認証、そしてSPO~
2021年11月10日
最近、環境ラベル(商品やサービスがどのように環境負荷低減に資するかを示すマークなど)が付されている商品を見ることが増えた。環境ラベルの種類は多様だが(※1)、生産から廃棄まで製品ライフサイクル全体を通して環境負荷が少ない商品であることを示すエコマーク、原料に古紙を規定の割合以上利用していることを示すグリーンマークなどが代表例として挙げられる。生物由来の資源(バイオマス)を利用していることを示すバイオマスマーク、適切な管理が行われている森林の木材を使っていることを示すFSCマークも、最近よく見かける環境ラベルだ。
さて、金融資本市場でもグリーンボンドやソーシャルボンドなど、環境や社会によいという“ラベル”を付した金融商品が増えている。米国では金融商品に止まらず、上場企業が自身にこうした“ラベル”を付す動きも見られる。例えば、米国ではBenefit Corporation(BC)という法人格を取得し、取引所に上場する企業が増えている(デラウェア州など一部の州では Public Benefit Corporationという名称が使われている)。BCは株式会社だが、企業活動を通じて環境や社会などの公益(public benefit)に貢献することが州法により義務付けられる組織形態である。BCの新規上場は2020年まで累計で3社であったが、筆者が調べた限り、2021年は既にCoursera、Broadway Financial Corporation、Zymergen、AppHarvest、Amalgamated Bank、Allbirdsの6社が上場を果たしている。
BCとして上場した企業は、非営利団体B LabのB Corporationという認証(以下、B Corp認証)も取得していることが多い。BCという法人格は自己評価のみで取得可能であるのに対し、B Corp認証はB Labが開発した環境や社会、ガバナンスなどに関する評価ツール(B Impact Assessment)で一定のスコアを満たさなければ取得できない。客観性を担保するためにB Corp認証も取得しているものと考えられる。加えて、Allbirdsは非営利団体Business for Social Responsibilityと連携し、自らSustainability Principles and Objectives (SPO) Frameworkを開発、Form S-1(米国で新規株式公開を行うためにSECに提出する証券登録届出書)に、SPOフレームワークを満たした環境、社会、ガバナンスの観点から優れた企業であると記載した。SPOフレームワークは、上場を目指す企業もしくは上場間もない企業に焦点を当てたESG評価の枠組みであり、外部の第三者から高いESGスコア/格付を得ること、ESG情報を定期的に開示すること、サプライチェーンマネジメント体制を講じること、従業員や取締役のダイバーシティを確保することなど、複数の要件を満たすことを求めている。
昨今のサステナビリティ意識の高まりにより、サステナブルな事業を行っていることを打ち出したい企業、そうした企業に投資したい投資家は増加傾向にある。日本の上場市場でも今後、企業そのものに“ラベル”を付す動きが出てくるかもしれない。一方、本稿で紹介したBCとB Corp認証、SPOのように、各種“ラベル”の意味は似た部分もありつつ、それぞれ異なる。投資家にはラベルの真贋を見抜く力が求められよう。
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主席研究員 太田 珠美
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