TCFDへの対応に係るニーズの高まりとフォワードルッキングな財政分析

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2021年11月08日

2021年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂され、上場会社のサステナビリティへの取り組みに関する情報の開示が求められるようになったばかりである。加えて、2021年9月から、金融庁金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループが開催されており、足元では金融証券取引法に基づく有価証券報告書等でも気候変動情報をはじめとしたサステナビリティ情報の開示を求めることについて議論が行われている。

ここまでの議論では、どのようなサステナビリティ情報についての開示を求めるか、有価証券報告書の中にサステナビリティ情報について記載をする欄を設けるかといったことについて議論が行われている。特に気候変動情報については、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の基準(TCFD提言)と同様に「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」に関する情報開示が論点になっている。

TCFD提言のうち、「戦略」の部分に対応する上では、企業の短期・中期・長期の気候変動に関するリスクと機会の説明や、そのリスクによる財務への影響の開示が必要となってくる。

有価証券報告書では、「事業等のリスク」の部分において経営者が重要であるとみなすリスクについて記載する。しかし、このリスクによる具体的な財務への影響を定量的に開示している企業は少ないだろう。「事業等のリスク」に続く「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」の部分においても、当年度の業績の分析は行われている一方で、将来のリスク等も反映した翌年度以降の業績の分析を行っているケースは少ない。

足元のディスクロージャーワーキング・グループでの議論においては、有価証券報告書で気候変動に関する定量的な情報開示を積極的に求める意見はあまり見られない。しかし、将来的には気候変動に関するリスクによる財務への影響を具体的に開示していくことも必要になることが想定される。

論点になり得ることとしては、他のリスクに関する情報の重要性との関係である。企業によっては気候変動リスク以上に業績に重要な影響を与えるリスク(例えばサステナビリティに関して言えば人権や生物多様性に関するリスク)があることも想定される。そうしたリスクが将来的に業績に与える影響を定量的に開示することも、投資者の投資判断にとっては重要になると考えられる。

つまり、今後企業にはTCFD提言への対応とともに、従来以上にフォワードルッキングな目線で自社のリスクを捉え、定量的に影響の分析をして開示することに対する投資家からのニーズが増してくると考えられる。企業はTCFDへの対応はもちろんのこと、気候変動以外のリスク情報についても、どのリスクによる影響が重要であるのか、改めて整理を行うことが期待される。

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藤野 大輝
執筆者紹介

金融調査部

研究員 藤野 大輝