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成長と分配の好循環は給付・減税では実現できず

2021年10月28日

経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司

2021年10月31日に投開票される衆議院議員総選挙では、分配政策が争点の1つとなっている。新型コロナウイルス感染症の拡大が一部の企業や家計に打撃を与えるなか、与野党ともに給付や減税を打ち出している。

だがこうした政策は総じて財源が曖昧だ。歳出の見直しや増税などで財源を確保できなければ、赤字国債を発行することになる。これは将来世代が生み出す所得の一部が現在世代に分配されることを意味するが、政府はすでにコロナ危機対応として巨額の赤字国債を発行した。2011年の東日本大震災後に取りまとめられた基本方針では「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合う」とされた。コロナ禍で苦境に立たされている人々を重点的に支援するとともに、財源確保のあり方について議論を進めるべきだ。

給付や減税の目的が不明確である点も気になる。複数の政党は消費税率5%への引き下げを掲げている。これは家計の負担を年10兆円超軽減し、その一部は消費に回るだろう。もっとも、消費が今低迷しているのは負担が重いからではない。感染症対策として家計が旅行や外食、娯楽などを我慢しているからであり、財の消費水準は感染拡大前を上回る。2020年1月から2021年9月までの家計の過剰貯蓄(感染拡大前のトレンドを上回った貯蓄額)は40兆円を超えたとみられる。日本の消費は主要先進国と比べても伸び悩んでいることは確かだが、給付や減税によって消費の伸び率を持続的に高めることはできないだろう。

与野党ともに賃金の引き上げを目指しているが、手取りの給与がほとんど増えていないことにも注意を払う必要がある。全ての雇用者が受け取る現金・現物給与や事業主負担分の社会保険料が含まれる雇用者報酬は2000~19年度に実質額で10%ほど増えた。だが社会保障給付費の増加で保険料負担が重くなったことで、手取りベースでは1%ほどの増加にとどまったと推計される。働き手が生み出した付加価値のうち医療・介護分野などに分配される割合が高まり、企業収益が拡大するなかでも働き手の生活水準は改善しにくくなっている。

生産性向上などを通じた賃金の引き上げは重要課題である。だが実現するかどうかは民間の取り組み次第であり不確実性は大きい。一方、社会保険料の増加を抑えることは政府が直接的に実現できる。成長と分配の好循環には、制度改革や規制改革など構造問題への対応が不可欠だ。

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