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地方創生と「新しい資本主義」

2021年10月20日

経済調査部 主任研究員 溝端 幹雄

岸田文雄首相の「新しい資本主義」の名の下、所得格差が話題となっている。一口に所得格差と言っても、世代間・世代内の所得格差など様々な切り口があるが、地方創生の観点からは、地域間の所得格差が問題となるだろう。

戦後以降の長期的な時間軸でとらえると、1人当たり実質県民所得で見た日本の地域間所得格差は、一時的な変動はあるものの、おおよそ縮小傾向にある。その背景の一つにあるのは、地域が競争力を持つ特定産業に特化して競争力を高めたことが挙げられる。溝端[2016](※1)が指摘するように、戦後、製造業の特化が進んだ地域では、東京を基準とした地域の所得格差が大きく縮小する傾向が見られる。一方、農林水産業に特化した地域(北海道や宮崎など)が必ずしも東京との所得格差を縮小させているわけではなく、業種間で違いが見られる。そのため、地域間の所得格差の是正にはその他の条件も必要だろう。

その他の条件としては、域外へ財・サービスを移出(国内の他地域へ財・サービスを販売すること)・輸出(国外へ財・サービスを販売すること)して、多くの域外所得を獲得できるような高付加価値の財・サービスを地域内で生み出すこと、が考えられる。実際、下記の図表を見ても、地域の純移出率と純輸出率が高いほど、1人当たり実質県民所得の東京との格差は小さい傾向が見られる。しかも、純移出率よりも純輸出率の方が傾きは大きく、海外向けの純輸出の高い地域の方が東京との格差は小さくなっている。

一方、東京や大阪等の都市部に隣接する埼玉、千葉、奈良といった地域では、都市部に働きに出て稼いだ所得を居住地へ持ち帰る経済構造となっているが、それを表す「純要素所得率」が高いほど東京との所得格差が小さいという傾向は見られない。

こうした点から示唆されるように、地域間の所得格差の縮小には、単に所得を域内へ流入させるだけでなく、域外から所得を稼ぐことのできる産業、特に移出や輸出できる高付加価値な産業を地域で育てていくことが重要だ。現在、純移出、純輸出がプラスである地域は、関東や東海などの一部地域にとどまっており、北海道、東北、山陰、四国、九州・沖縄では純移出や純輸出はマイナスとなっている(※2)。地域の得意分野で移出や輸出を伸ばす一方、それに伴い原材料等の購入で域外へ所得が流出するのを抑えるために、地域内で関連産業のすそ野を広げるなど、移入・輸入が多くなりすぎない経済構造への改革も必要になるだろう。所得格差の話になると再分配政策に耳目が集まるが、以上で述べたような経済構造面からの地道な政策対応も忘れてはならない。

図表 地域の純移出・純輸出・純要素所得と東京との1人当たり県民所得格差

(※1)溝端幹雄[2016]「なぜ地方は東京に追いつけないのか?~長期データで見る地方の実態~」『大和総研調査季報』2016年夏季号Vol.23, pp.98-113.
(※2)溝端幹雄[2017]「論点③:地域間所得格差はどうすれば縮小するのか?」『第195回日本経済予測』2017年11月21日, pp.32-37.

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