米ドル覇権に挑戦するデジタル通貨の国際決済構想

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2021年10月04日

  • 経済調査部 研究員 中田 理惠

先日のFOMC後の会見では、最後の質問にてデジタル通貨競争における米国の現状が問われた。パウエルFRB議長は他国に後れを取ってはいないとしつつ、時期を急ぐよりも正しく進めることが重要であると強調した。米国がデジタルドルの発行に慎重な姿勢を示す背景には、プライバシーの問題などに加えて、デジタル通貨が既存の米ドル及び銀行を中心とした国際決済ネットワークに対する挑戦者となり得ることもあるだろう。本来はあまり積極的に取り組みたくない領域であるものの、中国の先行やディエム(旧リブラ)構想の出現により向き合わざるを得なくなった印象である。

中国は積極的にデジタル人民元計画を進めており、既に一部地域の小売店や交通機関でデジタル人民元の利用が始まっている。目下は国内普及に重点を置いているが、2021年2月からは中央銀行デジタル通貨(CBDC)を用いた国際決済構想に加わっている。同構想は「マルチプルCBDCブリッジ」プロジェクトとの名称で、中国のほかに香港、タイ、アラブ首長国連邦(UAE)及び国際決済銀行(BIS)の香港イノベーションハブが参加している。2021年9月28日の発表では同プロジェクトのプロトタイプにて素早い送金が達成されたとしている。既存の銀行ネットワークを介した送金であれば数日かかる。中国は、米ドルが存在しないCBDCという新領域で、利便性をアピールポイントに新たな決済ネットワーク及び人民元の普及を図り、今後の米中対立の深刻化に備えようとしているのかもしれない。

一方で対抗馬も出てきた。シンガポール及びBISのシンガポールイノベーションハブが中心となって呼び掛けていたCBDCの国際決済構想である「プロジェクトダンバー」に2021年9月からオーストラリア、マレーシア、南アフリカが加わった。シンガポールは香港に代わるアジア最大の金融ハブの座を狙い、CBDCの領域でも中心的な役割を担おうとしているようだ。

また、具体的なプロジェクトはないものの、2020年10月に日本銀行を含む7つの中央銀行とBISが共同で発表したCBDCに関する報告書によると、今後の展開としてクロスボーダー送金の改善も視野に入っている。

CBDCを活用した国際決済構想はまだ始まったばかりである。今後ブロック化の様相を呈してくるか、あるいは1つの標準規格に統一されるか、国際決済の在り方に変革をもたらす存在として引き続き注目していきたい。

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