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資金循環統計に見る曇天の日本経済

2021年09月22日

リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 兼 政策調査部長 鈴木 準

9月17日に日本銀行から公表された資金循環統計速報によると、6月末時点の家計金融資産残高は1,992兆円となった。その後の株価上昇を考えると、おそらく現在は2000兆円を超えているだろう。年度末ベースで1000兆円を超えたのが1990年度だったから、金融資産取り崩しの要因である高齢化が進む中にもかかわらず約30年で2倍になった。直近30年間の名目経済成長率(日本全体の所得の伸び)が年率0.4%程度だったことに照らしても、意外に増えたと評価できるかもしれない。

だが、日本が抱える経済と金融の構造的な課題は、むしろ深まっているのではないか。

まず、家計金融資産に占める現金・預金等の割合は、1990年度末が48.7%、2020年度末が53.7%であり、この30年間ほぼ横ばいだ。勤め先のエクイティを疑似的に保有しているに等しい長期雇用や年功賃金などの雇用システムが変化してきたことで、ある程度のリスク性資産を若いうちから保有しないと引退後に向けた資産を形成できなくなっている。ところが、1990年度末に16.9%だった家計金融資産に占める株式等の割合は、2020年度末で10.7%である。それに投資信託や確定拠出年金などの年金資産を合わせても、1990年度末が26.0%、2020年度末が28.1%と大して変わっていない。

“内部留保”が過大だと批判されている企業部門はどうか。民間非金融法人企業が持つ現金・預金等の資金調達残高(自己資本と他人資本の合計)に対する比率は、1990年度末13.2%、2020年度末17.1%と極端に高まったわけではない。1980年代後半の企業部門は設備投資意欲が旺盛で大幅な資金不足主体だったが、当時も企業はそれなりに現預金を持っていた。現預金の保有と設備投資や雇用者への分配との間に、システマチックな関係はないと思われる。ただ現在の企業部門は、1990年度末に2.7倍だったレバレッジ(総資産÷自己資本)を2020年度末で1.8倍まで低下させており、借入れを激しく圧縮したままである。

そして、家計と企業を仲介する金融部門はどうだろうか。銀行等の預金取扱機関における預貸率は、1990年度末に82.4%だったが2020年度末は50.6%になってしまった。反対に、預金取扱機関の公的部門に対する債権(国債、地方債、日銀当座預金など)の預金に対する比率は、1990年度末に10.1%だったが2020年度末には45.3%まで高まっている。家計が大量に保有する預貯金の半分近くは、仲介者を通じて、利益を上げることを目的としていない公的部門に対する債権に向かった構図である。

これらは実に様々なことを示しているが、少なくとも言えるのは、従来の間接金融を中心とした仕組みが十分には機能しなくなっているということだろう。また、公的部門の債務を増やしても民間部門の資産が増えるからといって、貨幣や財政支出をひたすら増大させるだけでは曇り空の日本経済を晴天にはできないということだろう。富を生み出すわけではない公的部門は、自由な競争と公正な分配のための制度やルール作りに徹するべきだ。

懸命に働いている大多数にとって、過去30年間にわたる年率0.4%という所得の伸びは到底満足できるものではない。家計金融資産がほぼ2000兆円にまで増えたのは良かったが、「所得が伸びなくても資産が増えた」のではなく、「資産をうまく使えていないから所得が伸びなかった」と考える方が正しいだろう。民間部門の中から生まれてくる新しいアイデアや知恵に資金を向かわせる金融商品を家計が選択できるシステムに変えていけば、家計金融資産をもっともっと大きくできるはずだ。

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鈴木 準

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