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膨らむESG投資規模に疑問膨らむ

2021年09月08日

政策調査部 主席研究員 鈴木 裕

世界のESG投資を集計すると2020年は35兆ドル(約3,850兆円)となり、2年前から15%増加したとの調査結果が先日公表された。ESG投資の資産規模が急膨張していることはしばしばメディアに紹介されているし、これを題材とする金融業界のレポートも数多い。

しかし、ESG投資規模の大きさに関して、実態よりもかなり過大な数値になっているのではないかと思わせる報道が最近あった。ドイツ銀行グループの資産運用業者DWSに対して、米国証券取引委員会(SEC)とドイツ連邦金融監督庁(BaFin)が調査に入ったというのだ。DWSの年次報告書では、受託資産7,930億ユーロ(約100兆円)のうち4,592億ユーロ(約58兆円)をESG投資に充てているとしているが、DWSを解雇されたサステナビリティ部門の元役員によれば、これは誇張だという。DWSはこの元役員の主張を認めていない。

ESG投資の規模は、資産運用業者の自己申告を基礎にして、各国のESG投資調査団体が集計している。世界のESG投資規模は各国の集計値をさらに集計して求められる。資産運用業者は、自社のESGへの取り組みが高い評価を受けるように見栄え良くしようとするだろうし、自己申告をチェックする評価基準もないため、この種の情報を利用する際には注意が必要である。筆者は、ESG投資規模のデータに対して疑問を呈してきており(※1)、今回の報道には、金融規制当局の対応が遅すぎるということ以外の驚きはない。

報道内容の真偽はともかく、ESG投資に関する情報開示や広報等と実態の間に差異が無いかについて、金融規制当局による調査を受ける可能性はどの資産運用業者にもあるだろう。ESG投資に関するSECの“Risk Alert”(2021年4月9日)は、資産運用業者が示しているESG投資方針を遵守しているかを改めて確認し、その状況を開示すべきとする新規制の方向性を示す文書だ。自社が広報している投資手法が守られているか、年金基金等の顧客から示されたESGマンデートを自社内で適切に管理できているか、ESG投資によって購入された株式の議決権行使の内容に矛盾はないか、こうした問題点をチェックすることを推奨している。

日本でも、金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議報告書」(2021年6月18日)は、「金融庁においては、資産運用業界におけるESGやSDGsのあり方について、その具体的な指標も含めて幅広く調査・分析を行うとともに、資産運用業者等に対するモニタリングを進めていくことが適当である。」と記している。

資産運用業者にとってESGは使いやすいマーケティング用語であったかもしれない。しかし、これが金融規制の範疇に入るとなると、ESGについて何をどう表現するかが資産運用業者の責任問題になりかねず、これまで以上に慎重な対応が必要になるだろう。一方、ESG投資市場を見るデータを民間団体のアンケート調査に頼っている状況があるとしたら、当局の側にも課題があるだろう。

DWSに関する今回の報道には、もう一つ気になったところがある。内部告発した元役員は報奨金を受け取れるのかということだ。内部告発が端緒となって金融業者等に制裁金が科された場合、告発者に制裁金の10%~30%を与える内部告発奨励制度をSECは運用している(※2)。仮に、かなりまとまった金額の報奨金が払われるとすれば、他の資産運用業者でもESG投資の実態を告発しようとする動きが出てくる可能性がある。とはいえ日本では、内部告発を促すSECの制度のような強いインセンティブは設けられていない。事情に通じた内部者には、口を開く動機がないのだから、大した影響は生じなさそうでもある。

(※1)鈴木裕「年金運用におけるESG投資」(企業年金連合会『企業年金』2012年4月号p.16-19)、鈴木裕「ESG投資促進策は必要か? 政策立案当局における情報リテラシーの問題」(時事通信社『金融財政ビジネス』2016年6月20日号p.12-16)
(※2)鈴木裕「証券詐欺の再発防止はどうするか?—通報と報奨金による動機付け—」(大和総研 2012年3月30日)

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政策調査部
主席研究員 鈴木 裕