アフガニスタンにおける混乱を見て、20年の年月を思う
2021年08月26日
欧州では、新型コロナウイルス(コロナ)の感染抑制と経済の正常化の両方をコントロールしようとしており、スポーツや音楽等の大規模なイベントも観客を受け入れる形で再開している。聴衆が戻ったコンサートをTV画面越しに見ても、コロナ禍前との異なる点は奏者のマスク着用の有無や奏者間の距離感ぐらいだろうか。演奏する団体によって対応は異なるようで、木管や金管を除く奏者が全員マスクを着用しているケースや、マスクなしで距離を取るケースも見られる。演奏後に、行動制限措置の時にはなかった観客の盛大な拍手を聴くと、日常に戻りつつあることを実感する。もっとも、英国の1日当たりのコロナ新規感染者は約3万人で推移し(人口当たりで換算すると日本での約5.5万人に相当)、入院患者数が増加傾向にあるのも現実だ。だが、ニュースで取り上げられることは少なくなり、代わってアフガニスタン問題の報道に多くの時間が割かれている。
9.11(同時多発テロ事件)に端を発する米軍等のアフガニスタン侵攻からの20年間が振り出しに戻ろうとしている。英国は同問題に20年間米国と一緒に関わってきた経緯、加えて、英国自身がアフガニスタンとは19世紀から独自に因縁があることから(『シャーロック・ホームズ』シリーズで著名なワトスン医師は軍医としてアフガニスタン戦争に従軍し負傷、モリアーティ教授の片腕であるモラン大佐もアフガニスタンで従軍)、関心が高いのかもしれない。
8月末とされる米軍の撤退期限を前に、20年前に支配者の座を追われたタリバンが首都カブールに到達し、同時に米欧が約20年間にわたって後押ししていたアフガニスタン政府が瓦解し、国外脱出を求める人々が空港に殺到、カオスが生じている。アフガニスタンは、19世紀には大英帝国、20世紀後半にはソ連、そして21世紀の今回は米国と西側同盟国というように介入してきた大国を退けている。
米国等の誤算は、予想を上回るタリバンの進撃スピードだが、米欧が手塩に掛けて整備・訓練したはずのアフガニスタン政府及び軍の脆弱さが手助けした格好だ。アフガン情勢が緊迫する中、英国のラーブ外相はギリシャ・クレタ島のリゾートで休暇を過ごし、タリバンがカブールに達した後にロンドンに戻ってきたことから、対応の遅れを批判されている。想定外の展開だったことを示す証左といえる。
それ以上に評判が悪い米国のバイデン大統領は、内外からの批判に対して、トランプ前大統領が2020年2月にタリバンと合意した方針に基づいて行動しており、当初のアフガニスタン侵攻の目的は既に達成されていると自らの判断を正当化する。とはいえ、過去20年には、バイデン大統領が副大統領を務めたオバマ政権の8年間(段階的に駐留米軍を削減し撤退を模索)も含まれており、撤退そのものはバイデン大統領も共有していた政策であろう。
米国経済担当の駆け出しで、初めてのNY出張の3ヶ月後に9.11が発生してから20年。莫大な資金や多大な犠牲を払いながら、長い年月かけて築かれたものが僅かな時間で無に帰し、さらには、将来に禍根を残すであろう(都合が悪くなれば最後は去ってしまうかもしれない、所詮、自国第一を優先すると他者に感じさせる)米国の撤退ぶりを目にするとは思わなかった。
一方、米国とともにアフガニスタンに関与してきた欧州各国の懸念の1つが難民問題であり、2015年に、シリア等から100万人を超える大量の難民が欧州に押し寄せてきたトラウマがある。その後、難民を受け入れた各国で経済的・社会的に負担となり、ポピュリズムの台頭等政治混乱が生じた。2015年時に8割以上の難民が到着したギリシャはトルコとの国境沿いに壁を建設し、欧州各国は、アフガニスタンで自国に協力した人々は別にして、総じて難民受け入れには消極的である。コロナ禍から経済の正常化が進展しているとはいえ、国によってそのスピードは異なり、南欧の国ほどコロナ禍前の水準を回復するには時間がかかる見通しである。また、各国ともコロナ対策で財政状況が悪化している中では、経済的・社会的なコストの負担に慎重になるとみられる。
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政策調査部長 近藤 智也