ワクチン接種とマスク着用で二極化する米国

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2021年08月19日

米国でも新型コロナウイルスのデルタ型変異株の感染が拡大している。ニューヨーク・タイムズ紙によると、米国では約13万人新規感染者が発生しており(7日平均。本稿執筆時点)、ワクチン接種が進んでいるにもかかわらず、2月初旬の水準にまで増加している。このような状況下で、7月29日にバイデン大統領は感染拡大を抑制するため、400万人以上いる連邦政府職員などに対してワクチン接種状況を確認することや、接種していない場合にはマスクを着用し、週1回の検査を受けることなどを求める新たな施策を公表した(ただし、接種を義務化するものではない)。また、州や地方自治体に対し、ワクチンを接種した人に100ドルを提供することも呼びかけている。CDC(米国疾病予防管理センター)によれば、米国でのワクチン接種完了者は接種可能な12歳以上の人口の6割弱となっていることから、ワクチン接種率を高めようとするものである。

連邦制の米国では、ワクチン接種やマスク着用を求めるなど、公衆衛生に関する規制権限は一部、連邦政府にも担われているが、基本的には州・地方自治体がその権限の大部分を行使している。議会調査局によると、連邦レベルでバイデン大統領が実施可能な政策は限られているとされており、例えば、移民や軍人などを除いて、既存の連邦法には、米国の一般市民にワクチン接種の義務を明確に課すものはないとされる。

それでは、州・地方自治体はどのような対応をしているのだろうか。例えば、ニューヨーク市では8月16日より、米国で初めて屋内のレストラン、スポーツジム、娯楽施設に入る人々に対して、ワクチン接種証明書の提出を求めることとなった。これらの施設の従業員にもワクチン接種が義務付けられる。また、カリフォルニア州では、米国で初めて医療従事者へのワクチン接種の義務化に踏み切ることになった(ただし、宗教上の理由でワクチン接種を拒否する場合、医療上の理由でワクチンの接種を受けることができない場合は、義務は免除される)。こうした民主党が主導する州や自治体での動きは、他の民主党が主導する州や自治体でも見られつつある。

対照的に共和党が主導する州の中には、ワクチン接種は任意にされるべきであり、強制されるものではないなどとして、政府機関などにワクチン証明書の提出を求めることを禁止するなどの州もある。

このような党派による新型コロナウイルスに対する施策の差異は、世論調査にも表れており(※1)、有権者のうち民主党支持者の8割以上が医療上の理由を除きワクチン接種を全ての米国人に義務付けるべきとしている一方、共和党支持者では35%となっている。また、マスク着用義務化についても、民主党支持者の8割以上が賛成しているのに対して、共和党支持者の半数以上が反対している。

今後も党派による新型コロナウイルスに対する政策や人々の考え方の二極化は続くものと思われるが、この二極化が変化し得るきっかけとして考えられるのは、米国政府によるワクチンの正式承認である。現在接種されているワクチンは、あくまでも緊急使用許可であり、正式承認されているわけではない。他の調査によると、ワクチンを接種していない人の約3分の1は、ワクチンが正式承認されれば、接種する可能性が高くなるとしている 。米国では早ければ9月にも正式承認される可能性が報じられており、二極化に変化が生じるかに注目したい。

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 鳥毛 拓馬