人々の行動に働きかけるための教訓

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2021年08月05日

  • 調査本部 常務執行役員 調査本部 副本部長 保志 泰

新型コロナ感染の第5波は爆発的な拡大に発展した。デルタ株の影響も指摘されるが、度重なる緊急事態宣言発出などの対応策にもかかわらず、人流が十分に抑制できなかったことが大きく影響したことは明らかである。強制力を伴わない日本の施策には限界も指摘されるが、人流抑制の努力は続けざるを得ない。

ところで、人々の行動に働きかける施策は、コロナ対策以外でも様々な分野で行われつつある。例えば、気候変動対策や家計の資産形成促進策などもこれに含まれるだろう。検証するのはまだ早いかもしれないが、コロナ禍から何か教訓は得られないか。

感じたことの一つは、施策の効果は長続きしないということだ。昨年のコロナ禍の発生以来、行動経済学的知見も駆使する形で人々の行動変容を促してきた。例えば「大切な人を守るため」といった言葉遣いもその一つで、当初は確かに効果を上げて、昨年の夏休みにステイ・ホームを続けた人は多かった。しかし今年はほとんど効果を失った。高齢者へのワクチン接種が進み、高齢者層の感染が大きく抑制されたこともあろう。時間の経過で様々な対策の効果は減衰するため、人々の行動を継続的に変えることは困難なことがわかった。いかなる施策も時間や環境の変化に合わせて不断に修正していくことが肝要であろう。

二つ目は、集団心理の変化に対する施策の弱さである。昨年は著名人の死去などの衝撃もあり人々の行動が慎重になったほか、周囲の目を気にして行動を抑制する人々も多く、諸施策の効果を強めた。しかし、多くの人が外に出る状況になった現在、「みんなで渡れば怖くない」的に外に出てしまう、という行動が目立つようになった。そうなると、もはや国や自治体の呼びかけは耳に入りづらくなる。大勢の心理が一方に傾く前に効果的な施策を打つ必要がある。

そして三つ目は、個々の人に目を向けたきめ細やかな施策の必要性である。今回、人々を「マス」と捉えて統計的なアプローチを根拠とするような説明が目立った。効果を高めるためのシミュレーションは当然必要だが、その情報ばかりが耳に入ってくると、徐々に他人事のように聞こえてくる。人は千差万別であり、紋切り型の政策を当てはめようとすれば、自ずと歪みが生じ、反発を招けば効果が低減してしまう。

給付金やワクチン接種などのコロナ対策の中で、国と都道府県、区市町村と、それぞれが役割を持って施策を進めたものの、外から見ていると十分な連携がなされているのか、疑問を感じるような報道も少なからずあった。施策を考えるのは主に国であるが、人々に直接接するのは区市町村である。その連携が不十分であれば、国の施策が本当に人々のことを見ているのか疑念を抱かれても仕方ないだろう。

これを踏まえれば、国と地方自治体の間の連携のさらなる円滑化が重要ではないか。そのためには、例えばデジタライゼーションの全国的な推進や、連携プラットフォームの構築も必要であろう。感染症対策を含む医療や福祉、防災・減災、地方創生など様々な局面に活用できるはずだ。区市町村のきめ細やかな対応を通じて、国の施策が効果を発揮することを期待したい。

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保志 泰
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