「グリーン」に中央銀行が関わる一因は価格上昇への対応

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2021年08月04日

  • 土屋 貴裕

脱炭素を目指して原油の利用が減るだろう、という予想が成り立てば、傾向として原油の生産は減ると考えられる。問題は利用の減少ペースと生産の減少ペースの違いである。

利用減少の方が速ければ原油価格は低下し、生産減少の方が速ければ原油価格は上昇するだろう。需給バランスの変化で価格が変動するということだが、生産の減少ペースの方が速くて原油価格が高騰した場合は、利用の減少は進んでいないので、ユーザーサイドが被る影響は大きくなる。やっかいなのは各国の需要動向だけではなく、グローバルに考える必要があることだ。ある地域で原油需要が減少しても、他の地域での需要が変わらず、供給が減少していれば、需要が減っている地域でも価格が上がることになる。用途によっては利用をゼロにはできないだろうから、影響は産業によって異なり、企業や個人によっても異なるはずである。代替する手段の用意が追い付かなければ、多少需要が減少しても価格が上昇してコスト負担が増える可能性がある。

原油を例に取り上げたが、供給不足による価格上昇は最近も起きている。半導体や木材、鉄スクラップ、船舶の輸送能力の不足が価格を押し上げ、価格が上昇しても短期間で供給能力を引き上げにくいことが改めて確認された。

気候変動への対応は数十年という長期に及び、需要側の対応のスピードは国や産業などによってまちまちだろう。供給側が一時的な価格上昇で利益を上げられるとしても持続的な収益基盤とは言い難い。特に化石燃料といった、将来的に需要も供給も減らす予定の資源で供給の増加を促すのは難しい。国内外の需要の減少ペースや代替手段の確立、備蓄とのバランス次第では、供給要因によるインフレ圧力が続く可能性もあるだろう。

これはインフレ率を政策目標に抱える中央銀行にとっては頭の痛い話題である。経済の一部の供給力不足で物価が上昇したからと言って、金融引き締めで総需要を抑制しようとするのは目的と手段のバランスが取れていないし、国外要因への対応余地はあまりない。

需要を減らしたとしても価格上昇の影響を受けざるを得ないが、需要が減ると予想される資源の利用を早く減らした方が価格上昇の影響を受けにくいことになる。やはり気候変動対応の投融資を促進する必要があるということだ。供給サイドに働きかける手段を持ち合わせてこなかった各中央銀行が、「グリーン」に積極的に関与するようになってきた一因はここにあるのだろう。

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