世界で愛されるポケモンが意識している「多様性」

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2021年07月28日

現在5歳の筆者の息子は、ポケットモンスター(ポケモン)のアニメに夢中だ。このアニメが放映開始された1997年当時、筆者は小学生で、今の息子のように毎週の放送日を楽しみにして、かじりつくようにテレビを見ていたことを思い出す。

現在のアニメの主題歌「1・2・3」(作詞:まふまふ)は初代の主題歌「めざせポケモンマスター」(作詞:戸田昭吾)をオマージュしている。「火の中」でも「水の中」でもポケモンを探そうとする主人公サトシの勇敢な姿が変わらずに描かれており、当時からアニメを見ていた親世代の童心をくすぐる。一方、初代主題歌では「あのコのスカートの中」までもポケモンを探そうとする様がコミカルに描かれていたが、最新の主題歌にはこうした表現はなくなっている。

「めざせポケモンマスター」は当時の小学生に大人気の曲で、筆者が通っていた小学校の運動会でもダンスの曲としてこの曲が使われていた。けれど「スカートの中」云々の歌詞は筆者としてとても恥ずかしく、この部分は大きな声では歌えなかったことが記憶に残っている。

その理由を当時はうまく説明できなかったが、今ならば分かる。弁護士の太田啓子氏によると、スカートめくりは「性的な意味がはっきりした、明らかな性暴力の一種」で、「性暴力を『笑いを取るネタ』として扱うことは、性暴力を軽視する意識を視聴者に与え」(※1)る。当時としては男の子によくある悪ふざけのひとコマとしてあまり問題視されない表現だったのだろうが、それをそのまま残さず、時代の流れに合わせて誰もが楽しめるコンテンツ作りを意識していることが汲み取れる。

最近のポケモンのアニメでは、登場人物たちも、性別、人種、年齢などの観点でダイバーシティに富んでいる。ポケモンのゲームでは、プレイヤーに主人公の「性別」ではなく「見た目の姿」(スカートをはいているか、ズボンをはいているかなど)を選択させることで、性別と容姿を固定させない工夫もされている。

筆者の息子は、今のポケモンを通じて、世界にはいろんな人種の人がいて、男の子も女の子も互いを尊重して付き合っていくことを自然と学習していくのだろう。ポケモンが、今や、日本だけでなく世界中から愛されているのは、ゲームやアニメの面白さだけでなく、多様な価値観への配慮が随所に施されているからではないか。世界に向けてビジネスを展開していく上で、「多様性」がいかに重要なのかを筆者はポケモンから学ばせていただいた。

(※1)太田啓子『これからの男の子たちへ』大月書店、2020年、pp.31-33

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是枝 俊悟
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 是枝 俊悟