オフィス削減に先立つ職場のフリーアドレス制

-コスト削減でなくDXの一環として-

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2021年07月08日

コロナ後のオフィス削減と並び最近よく聞くフリーアドレス制。在宅ワークが定着し、もはや全員分の席を用意する必要はないとの想定の下、床面積そのものを減らす前に席の総数を減らして様子をみるのは自然の成り行きだ。

図書館や大学の講義室を想起すればフリーアドレス制自体は昔からある。教科書、ノートPCその他一切合切をトートバッグに入れて持ち歩く。職場のフリーアドレス制といえば図工室にありそうな広い作業机のオフィス風景だ。私にも経験あるが毎朝、書類庫から自分専用の書類箱とノートPCを持ち出し席に着く。自由席だが先輩の上座に座ることはなく、おのずと序列順に定まった。

目下取りざたされているフリーアドレス制はオフィス削減と在宅ワークが背景にある。検討にあたって留意すべきポイントは何か。フリーアドレス化でなくなる脇机、配席図、専用席をフラグに考えてみた。

第1に脇机がなくなる。導入にあたって仕掛書類や参考図書など一切の紙資料をスキャンする作業がある。サーバー容量の増強が必要だ。電子化した資料を眼前に広げるのにデュアルモニターが要る。机周りをPC環境に置き換えるには通信用、参照用そして作業用の画面が必要だ。いっそ2in1タブレットをメインPCとし、出社したとき席のモニターに繋ぐ方式もよい。キーボードやマウスの共用を避ける利点もある。

第2に配席図がなくなる。いつ誰がどこにいるのかわからず、ミーティングの調整どころかちょっとした相談も難しい。本来のフリーアドレスは偶発的なコミュニケーションを期待してのことだが、在宅ワークを前提とすると一転、コミュニケーション上の課題が現れる。給湯室やタバコ部屋と一緒になくなってしまう類の交流だ。スケジューラーやイントラ掲示板では不十分。解決のカギとなるのがチャットと情報共有システムだ。

新しいコミュニケーション手段の習熟も求められる。ブラインドタッチは言うまでもないが、文字情報でふつうに会話するには頭の切り替えがいる。メールだと言い方が厳しくなる人はいないだろうか。人間関係は一層フラットになり、失礼の定義も変わる。新しい組織文化に適応しなければならない。ネット文化によるもの以前に、上座下座の観念が残るうちはフリーアドレスが形骸化する。

第3に専用席がなくなる。自分の席が召し上げられると感じ不安を覚えるオフィスワーカーもいるだろう。自席を持たざる階級ができるわけではない。待遇ダウンと誤解されぬよう導入は平等に。専用席を一部残す場合、専用席と自由席の仕様に優劣をつけないのも細かいが策のひとつ。

自由席に向かない職種はたしかにある。たとえば道具箱のように居場所を常時固定していないと不便な職種。管理職がフリーアドレスの例外になるのは、緊急時に決裁をもらったり、相談したり、書類にハンコを捺してもらったりする必要がある場合だ。脇机を減らすと生産性が落ちる職種もフリーアドレスに向かない。自分しか使わない荷物、スキャンできない資料を格納した脇机を朝晩出し入れするのは非効率だ。

本質的には、フリーアドレス化にコスト削減以外の戦略性を込めることだ。組織が戦略に従うように、レイアウトは組織に従う。フリーアドレス化でどのようなチームビルディングを期待するのか、働き方をいかに変えるかを定義することがポイントだ。フリーアドレスはコスト削減を先に立てると失敗する。レイアウトに合わせIT環境と組織文化を変えないと職場のストレスが貯まるばかり。生産性を上げ、働き方を変えるDXの一環として取り組むのが鉄則だ。

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鈴木 文彦
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 鈴木 文彦