ESG格付は「確からしい」評価たるか

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2021年07月06日

  • 田中 大介

先日、古びた教科書の中で「確からしい」という言葉を目にした。

本来、3月以降はフォーミュラ・ワン世界選手権(F1)シーズンであるため、筆者の休日はF1観戦に投じられるのだが、その日は実家から学生時代の教科書や専門書が送られてきたのである。レースが始まる2時間前に、届いた段ボールを開封したのをきっかけに、片付けを後回しにして、懐かしさを感じつつまだ時間があるからと書籍を手に取ってしまったというわけだ。

さて、本題に入る前に、確からしいという言葉を説明しておく。一般的に、信頼できる、あるいは確実性の高いさまを指し、理系か文系かにかかわらず、何かを推計した際に問われるのがこの言葉である。

学会等では度々質問される内容であるため、回答を用意しておく発表者も多いのではないだろうか。

他方、この問いに対して確からしさの根拠たる理由を述べた後に、結論として推計結果に問題がないと言い切る発表者はほとんどいないのではないだろうか。確からしいことの証明は推計結果における正しさの証明である。前提条件を置くことが常である推計において、その結果を確からしいと断言することは存外難しい。

ここで、本題であるESG格付が「確からしい」のかを考えたい。

近年拡大しているESG投資において、ESG格付は投資判断材料としての影響力を増しているが、その一方でいくつか問題点が指摘されている。

詳細は筆者のレポート(※1)を参照いただきたいが、①ESG格付会社が詳細な評価手法を公開していない、②ESG格付間の相関関係の低さ、③利益相反の可能性などが挙げられる。特に深刻なのが①である。実際にESG格付会社が情報として売り出していることから、格付会社も自社のESG格付にはある程度の確からしさがあるという考えを持っているのだろうが、前に倣って学会の質疑応答に例えると、発表者が「推計手法についての詳細は公開できないが、推計結果は確からしい」と言っているに等しい。

これでは、確からしいか否かを判断しようにも、判断するための情報が公開されておらず、判断のしようがない。確からしさの可否を問う以前の問題である。

したがって、現在のところESG格付が確からしいか否かを客観的に判断することは困難であり、これを改善するには現行の信用格付規制に倣ってESG格付の定義を法的に定めることや、金融監督機関等による登録・監督でESG格付の確からしさを公的機関に担保してもらうなどが必要だろう。

種々問題点を抱えるESG格付だが、ESG投資の拡大において果たす役割は大きい。金融資本市場の健全な発展のためにも、ESG格付の「確からしさ」を判断できるような環境が醸成されることを期待したい。

なお、書籍を読み終わったのは、フォーメーションラップ(※2)の走行中であり、決勝レースは最初から最後まで観戦できたことは、同志であるF1ファンの皆様にお伝えしておく。

(※2)決勝レース前に各マシンがコースを一周すること。

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