デジタル人民元は人民元の国際化にどう作用するか?

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2021年07月05日

  • 経済調査部 研究員 中田 理惠

昨今、デジタル人民元の記事を目にする機会が増えてきた。デジタル人民元とは中国の中央銀行デジタル通貨(CBDC)で、2022年の北京冬季五輪でのお披露目がもくろまれている。その実用化に向けた動きが加速していることに加え、欧米を筆頭に複数の中央銀行によるCBDCに関する研究・実証実験が増えてきた(※1)ことが背景にあろう。デジタル人民元の狙いはいくつかあるが、特に最近では、米中対立を念頭にデジタル人民元が人民元の国際化を促進する狙いがあるといった文脈で語られることが多い。

では、具体的にデジタル人民元は人民元の国際化をどのように促進する可能性があるのか?人民元の国際化は資本規制の自由化がなくては始まらないが、ここではそれが将来的に達成されているという条件のもとで話を進める。

まず、この問題については、店舗での支払いや個人間送金のような「小口決済」(現在パイロットテストが行われているデジタル人民元)と国際貿易や証券取引等に用いられる「大口決済」に分けて考える必要があるだろう。

小口決済については複数の経路が考えられる。その中で実現可能性が比較的高いものとして一つに、中国が技術協力する形で「デジタル人民元の技術をベースとする、デジタル人民元と相互接続が容易なCBDC」が多数できることで人民元の利便性を高め、国際化に貢献するといった経路が考えられる。既に中国は、デジタル香港ドルの開発を検討している香港との間でデジタル人民元を利用したクロスボーダー決済の実験に取り組んでいる。しかし、一部地域かつ小口決済での取引増加が通貨の国際化に対してもたらす影響は総じて限定的であろう。

一方で、大口決済でのデジタル人民元の活用は、人民元の国際化に大きく貢献する可能性を秘めている。現行の国際決済システムでは、手数料の高さや決済に要する時間の長さが問題視されている。CBDC及びブロックチェーン技術がこうした問題への解決策になるとして、現在、中国人民銀行は複数の中央銀行(香港金融管理局、タイ中央銀行、アラブ首長国連邦(UAE)中央銀行)及び国際決済銀行(BIS)とCBDCのクロスボーダー決済への活用を議論している。もし、中国がデジタル人民元を含むCBDCを活用した低コストかつ短時間の送金システムを諸外国に提供できれば、そのシステム利用者の拡大と併せて人民元の国際化を促進できる可能性がある。

もちろん、デジタル人民元の発行開始をもって、人民元の国際化が急速に進むことは考えにくく、あくまで将来に向けた布石の一つである。しかし、足元で中国は資本規制自由化の先を見据えて動き始めている。将来的に国際金融システムの在り方を革新し得る存在として、デジタル人民元の動向は引き続き注視していく必要があろう。

(※1)FRBは2021年夏にCBDC発行の可能性とリスクに関する見解をまとめたディスカッションペーパーを公表予定である。

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