海外から人材、企業、資金を呼び込む「事業機会」を増やせるか

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2021年06月16日

海外から人材、企業、資金を呼び込むための環境整備が進んでいる。金融庁の「世界に開かれた国際金融センターの実現」(※1)(2021年4月)では、高度人材の在留資格や海外の資産運用会社の日本市場への参入制度についての対応が記されている。また、最近の日本経済新聞(2021/6/7付「海外金融人材、永住しやすく ファンドマネジャーら優遇」、2021/6/13付「ファンドの日本参入、迅速に 実績あれば審査不要」)によると、在留資格については今夏に関連省令や告示を改正して年内に施行し、海外の資産運用会社の日本参入については今冬にも改正金融商品取引法を施行し、手続きを簡素にすると述べられている。これまで政府が取り組んできた法人税、相続税、所得税についての改正や明確化と併せ、海外から人材、企業、資金を呼び込むハードルが下がってきている。

2017年に「国際金融都市・東京」構想を発表した東京では、これまで50社近い企業(予定案件含む)の誘致実績を挙げているが、今年に入ってからは福岡がシンガポールや香港からの誘致実績を、また金融庁も英語で投資運用業と投資助言・代理業の登録を完了した事例を挙げる等、環境整備の効果が広がりを見せている。

とはいえ、ハードルを下げても、海外の人材、企業、資金を引き付ける投資案件や事業機会がなければ、誘致の勢いが失われてしまう可能性が高い。海外から「ヒト、モノ、カネ、情報」を集積することで都市の発展や地域経済の活性化を企図する東京、大阪、福岡にとって、今後重点的に取り組むべきテーマが事業機会の創出となろう。

海外からの関心が集まりそうなテーマとして、例えば地球温暖化や環境汚染などの課題解決に貢献する「大学発ベンチャー企業の育成」等が挙げられる。また、新しい技術やビジネスモデルを用いた事業活動を促進するための新技術等実証制度、いわゆる「規制のサンドボックス制度」の活用も注目されよう。これは、現行の規制で実用化が困難なビジネスモデル(対象となるのはAI、IoT、ブロックチェーン等の革新的な技術等)であっても参加者や期間を限定した実証ができ、実用化の可能性が検証される制度である。

一朝一夕に規制が緩和されることは難しいが、経済規模の大きい日本で新たな市場が創出されるインパクトは大きい。継続的に海外から人材、企業、資金を呼び込むには、彼らにとっての「事業機会」となる種蒔きが必要と考える。

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中村 昌宏
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 中村 昌宏