新型コロナウイルス感染症禍における死亡率の行方

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2021年06月15日

  • 岸本 知也

「死者数」、「死亡率」。この新型コロナウイルス感染症禍で毎日のように耳にするようになった言葉だ。退職給付債務の計算業務を行っている筆者にとって死亡率は計算上欠かせない数値である。退職給付債務の計算で一般的に用いられる基準死亡率は5年に1度改正されるが、次回改定の数値に影響はあるだろうか。

一般的に死亡率が低下すると、年金の支払い期間の長期化、定年到達確率の上昇などの要因により退職給付債務は増加する(死亡率の退職給付債務への影響については、既に大和総研でコンサルティングレポートおよびコラムを公開している。(※1)(※2))。基準死亡率は低下傾向が続いており、2020年4月にも改正が行われたがこの傾向は続いている。一方で、昨今の新型コロナウイルス感染症による日本での死亡者数の増加は大きくなりつつあり、この傾向に待ったがかかる可能性が出てきた。海外の例では、米国疾病予防管理センターが2021年2月に発表した報告書(※3)によると2020年上半期の間に米国における平均余命が前年に比べ1歳縮み77.8歳となり、14年前の水準となったそうだ。

では日本はどうであろうか。国立感染症研究所が行った2020年11月までのデータ分析(※4)によると、日本では死亡者が著しく増えるといった影響は見られなかったようである。しかし、その分析には入っていない12月以降の死者数の増加は著しい。厚生労働省の新型コロナウイルス感染症についてのオープンデータ(※5)によると、2021年5月18日時点で直近90日間の死者数は4,653人であった。このままの増加数が続いた場合に予測される2021年末時点での死者数は累計で約24,000人(※6)となり、年間で2万人を超える勢いだ。

国内の新型コロナウィルス感染症死者数の推移

多くの死者を出した例としては、東日本大震災が記憶に新しい。東日本大震災による死者数は15,899人(※7)にのぼり、その年の平均余命は前年に比べ男性が0.11歳縮み79.44歳、女性が0.4歳縮み85.9歳となった。単純には比較できないが、抑え込みの成否によっては死亡率・平均余命を大きく左右しかねない状況と言えそうだ。

(※6)(2021年5月18日時点の死者数:11,847人)+(直近90日間における1日あたりの死者数:51.7人)×(2021年5月18日~12月31日までの日数:227日)により算出

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