ワクチン先行地域であるニューヨークが示唆すること

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2021年05月27日

ニューヨーク(以下、NY)では閑古鳥が鳴いていたレストランに人が戻り、タイムズスクエアは観光客で溢れている。ワクチン接種者に対するマスク着用義務が解除されたことで、人々は笑顔を見せながら楽しく会話をしている。日本でも高齢者のワクチン接種が始まり、ポストコロナへの移行が徐々に進んでいくと想定される中で、NYの経験は日本にとって参考になるかもしれない。以下では、筆者が感じたワクチン接種に関するNYでの経験を3点ご紹介したい。

(1)ワクチン接種に時間を要する、焦りは禁物
NY州でのワクチン接種回数は2,211.9万回で、少なくとも一回は接種した人が州人口の54%を占め、全米でも先行地域の一つといえる(※1)。年齢別で見ると、最近接種が開始された12-17歳は23%と低水準だが、18-64歳は62%、65歳以上は82%となっている。とはいえ、ワクチン接種の進展が最初から順調だったわけではない。2020年12月半ばにワクチンが承認された後、高齢者の接種予約が開始したのは2021年3月半ばと3ヵ月を要した。当初は予約が取れず、ワクチンの搬送などでも多くの混乱があった。4月初旬には16歳以上の接種が始まったが、実際に予約が取りやすくなったのはウォークイン(予約せずに接種)が可能となった4月末からである。ワクチン接種の運用が急ごしらえである以上、混乱や遅延は避けられない。焦りは禁物ということだろう。

(2)マスク着用義務の解除はワクチン接種を促すため
ワクチン接種者に対するマスク着用義務の解除は、感染状況が改善したとの説明の下で5月半ばにGoサインが出た。NY州の一日当たりの新規感染者数は最多となった1月の約2万人から5月後半には1,000-1,500人前後と大幅に減少した。とはいえ、NY州の人口(約2,000万人)で考えれば新規感染者数の水準自体は低くない。こうした中でマスク着用義務が解除されたのは、接種ペースの鈍化を打破するインセンティブという側面がある。ワクチンを接種してマスクを外すか、ワクチンを接種せずにマスクを着けるか、人々に選択を迫ったといえる。しかし、マスク着用義務の解除を不安視する声も多い。筆者がワクチンを接種した際に、医療従事者からは「接種した人としていない人を外見からは判別できないので、接種後もマスクを着用してほしい。マスクをしない人が増える(感染リスクが高まる)から、2回接種した人も定期的にワクチンを接種してほしい」という声もあった。ワクチンの登場によって人々のスタンスの違いが鮮明になる中、感染予防に対する個々人の意識が一層重要となるだろう。

(3)若年層の接種、ブレークスルー感染など課題も多い
NY州では5月半ばには接種対象年齢が16歳以上から12歳以上と引き下げられた。しかし、依然として12歳未満は接種対象外のままであり、感染リスクに晒されている。接種対象年齢が更に引き下げられる時期が見通せない中、若年層を感染から守るためにも対象年齢となっている人々の接種が不可欠といえる。こうした中でワクチン接種が完了したニューヨーク・ヤンキースの選手で感染が相次いだことは衝撃的であった。接種後も感染(ブレークスルー感染)のリスクがあると報道されていたが、実際にそうした状況に直面すると落胆も大きい。CDC(米疾病対策センター)もブレークスルー感染に対して警戒を強めている。ワクチンがゲームチェンジャーになる一方、ブレークスルー感染のリスクがある中で、新型コロナウイルスとの闘いは簡単には終わらないということだろう。

(※1)5月23日時点のNew York Timesに基づく

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矢作 大祐
執筆者紹介

経済調査部

主任研究員 矢作 大祐