東証再編に向けた上場企業の動きが活発化

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2021年05月25日

東京証券取引所(東証)の市場再編に向けて、上場企業の動きが活発化してきた。来年4月4日にプライム市場、スタンダード市場、グロース市場という新市場の体制に移行するが、移行手続き、移行条件などが決まってきたことが背景にある。

もっとも、置かれている状況はそれぞれ異なることから、上場企業の動きは多様である。どの市場への上場を選択するかという予定を明らかにしたり、選択する市場の数値基準を充たしていることを示したりする企業がある一方で、選択する市場の数値基準を充たすためのコーポレート・アクションを実施する企業も出てきている。大手自動車メーカー傘下のある市場第一部上場の部品メーカーは、プライム市場で求められる流通株式比率35%以上を充たすために、主要株主である大手自動車メーカーに保有株の売却打診を行い、実際に市場での売却が行われたことを公表した。

他方、新市場での上場維持が難しくなる可能性を見据えて、支配株主からの公開買付けに賛同を示す企業もある。住宅メーカーを支配株主に持つあるジャスダック上場企業は、支配株主による公開買付けが成立すれば、完全子会社になることが想定されている。支配株主の保有状況を踏まえると、スタンダード市場で求められる流通株式比率25%以上を維持することが困難となるおそれがあるケースである。新市場への移行後、仮に上場廃止となれば一般株主に大きな影響が及ぶため、株式売却の機会を株主に現時点で提供することを公開買付けに賛同する理由に挙げている。

この他、中長期的な業績拡大や企業価値の増大を目指すに当たり、従業員の意欲や士気を向上させることを目的とした決定を行った企業もある。あるマザーズ上場企業は、2027年6月末までのプライム市場への上場を行使条件の一つとした新株予約権(ストックオプション)を従業員に付与した。

これらは表に出てきている上場企業の動きであるが、水面下での動きも少なくないだろうと思われる。今、上場企業は、市場再編に伴って、自社の置かれた状況を分析しつつ、将来の自社の姿を見据えた市場選択が求められている。今後も上場企業の動きはさらに活発化しそうだ。

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神尾 篤史
執筆者紹介

政策調査部

主任研究員 神尾 篤史