健康保険証としての利用はマイナンバーカードの普及に貢献するか

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2021年05月17日

行政のデジタル化を進める政府は、2022年度までにほぼ全ての国民がマイナンバーカードを取得することを目指している。コロナ禍対策として実施された特別定額給付金のオンライン申請や消費活性化策として実施されたマイナポイント事業の影響もあり、マイナンバーカードの交付枚数は2020年以降増えているが、普及率は2021年4月時点でも28.3%にとどまり、目標の達成は容易ではなさそうだ。

そうした中、普及率向上に影響すると注目されたのが、2021年3月に予定されていたオンライン資格確認等システムの本格稼働である。オンライン資格確認等システムとは、失効した健康保険証の利用による医療機関の過誤請求等を減らすために、オンラインで患者が加入する医療保険を照会するシステムである。資格照会の際に、健康保険証としてマイナンバーカードを使った場合、患者本人が同意することによって、患者の過去の薬や特定健診のデータ(EHR:Electronic Health Record)を医師等が閲覧できる仕組みにもなっている(※1)。

EHRを活用すれば、例えば、かかりつけの医療機関が被災した場合でも必要な治療継続が容易になるほか、救急搬送された意識障害のある患者に対しても、より適切で迅速な検査・診断・治療等を実施できるなど利点が多い。また、感染症拡大期等で対面診療が難しい場合にも、オンライン診療の安全性を高めることが可能である。だが、医療機関や薬局のシステム導入状況や、保険者が管理・登録している加入者データの正確性等に課題があったことから、オンライン資格確認等システムの本格運用は2021年10月に延期となった。

EHRの活用にとどまらず、このオンライン資格確認等システムは、データヘルス改革を実現するインフラとしての期待も大きい。公的医療保険制度や公的介護保険制度が整備されている日本には、健康・医療・介護に関する膨大なデータが蓄積されているにもかかわらず、さまざまな縦割り構造を背景に、これまでそれぞれのデータを有機的に連結させる仕組みが不十分だった。オンライン資格確認等システムは、マイナンバーと紐付く形で資格情報等のデータの一元管理を可能にし、健康な時から医療や介護を受けるまでの一連の状況を分析するための基盤となる。それにより医療関連のビッグデータの分析環境が整備されれば、予防医療の促進や生活習慣病対策、新たな治療法の開発や創薬、医療費の適正化等に活かすことが可能となろう。

マイナンバーカードの保険証利用には、先述したEHRの活用以外にも、特定健診情報等の経年データを確認して健康づくりに役立てたり、医療費控除の申告手続きを簡素化できたりといったメリットがある。ただ、現時点ではこれまで通りの健康保険証の利用でも受診自体に問題がないこともあり、足下の申込件数は限定的だ(※2)。保険証に代わる利用をマイナンバーカード普及の後押しとするには、利用者にとっての利点をさらに増やすことが必要ではないか。今後の展開が注目される。

(※1)2022年夏を目処に手術・移植、透析、医療機関名等の情報の閲覧も可能になる予定。
(※2)マイナンバーカードの健康保険証利用の申込件数は311万件と、マイナンバーカード交付実施済数3,491万件に対して8.9%である(厚生労働省「オンライン資格確認等システムについて」第142回社会保障審議会医療保険部会 資料(2021年3月26日))。

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 石橋 未来