3回目の緊急事態宣言、同じ轍を踏まない仕組みづくりを

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2021年04月28日

緊急事態宣言が4都府県に対して発出された。実施期間は5月11日までとされたが、今回は過去2回の宣言時とは異なり、感染力の高い新型コロナウイルスの変異株が猛威を振るう。1日あたり新規感染者数が過去最多を更新する地域や、まん延防止等重点措置の適用地域が足元でも拡大している。今後、宣言が延長されたり対象地域が拡大されたりする可能性は高い。

当面は感染拡大防止に力点を置き、人の動きを大幅に抑える必要がある。感染拡大の深刻さに鑑みれば、幅広い業種に対する休業や営業時間の短縮の要請はやむを得なかったとみられる。政府は要請に応じた企業等が倒産や廃業、雇用調整に追い込まれることがないよう、経済実態に応じて協力金や雇用調整助成金などを手厚く給付する必要がある。

宣言発出による日本経済への大打撃は避けられない情勢だが、より重大な問題は宣言解除後に感染爆発を回避できるかどうかだ。変異株の流行により、感染拡大防止と両立できる経済活動の水準が低下したことを十分に認識する必要がある。仮に、旅行や外食の需要が急速に回復した2020年秋のように人出が回復すれば、感染爆発が発生して4回目の宣言発出を余儀なくされるだろう。

政府は宣言解除後を見据え、同じ事態に直面しないための仕組みづくりを宣言期間中に進めるべきだ。医療提供体制を再構築するとともに、感染状況がどうなったら警戒レベルを高めるかの基準を決めておく「サーキットブレーカー」について検討することが考えられる。「こうなれば、こうする」ということが明確にアナウンスされていれば、国民の予見可能性が高まるため、感染状況が悪化した際に早期に行動を見直そうとするだろう。

感染爆発の回避に最も有効な手段はやはりワクチンの普及である。全国民の約6割が接種を終えたイスラエルでは、屋外でマスクを着用する必要がなくなった。菅義偉首相は65歳以上の高齢者へのワクチン接種について、2回の接種を7月末までに終えると表明したが、まずは医療従事者と高齢者への迅速な接種が求められる。その後に始まる65歳未満の人への接種では、感染拡大リスクの高い都市部にワクチンを重点的に配分するなどして、感染拡大防止と経済活動の両立を推進することも一案だ。

国内では経済活動の業種間格差がリーマン・ショック後並みに拡大している。今後はワクチンの接種ペースの違いから、国家間の景気格差が一段と広がるだろう。こうした「K字」型の回復が国内外で進むなか、経済の正常化で後れを取る日本は、従来の延長線上にないスピードと発想でコロナ対策に取り組む必要がある。

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神田 慶司
執筆者紹介

経済調査部

シニアエコノミスト 神田 慶司