日本はなぜ「出遅れる」のか

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2021年04月15日

  • リサーチ本部 常務執行役員 リサーチ本部副本部長 保志 泰

国内で高齢者への新型コロナワクチンの接種が始まった。人口当たり累計接種回数は米国や英国で50%を超し、日本以外のG7諸国は低くても20%前後あるのに対して、日本はわずか1%強にすぎない(4月12日時点における日本経済新聞社と英フィナンシャル・タイムズの集計)。この圧倒的な遅れは、今後の経済回復軌道の差として表れることが懸念される。

最近、このように日本が世界に遅れているという状況をよく耳にする。ワクチン以外でも、例えば女性活躍の度合いが挙げられる。世界経済フォーラムが発表した2021年のジェンダーギャップ指数において、日本は156ヵ国中120位であり、先進国では最低となっている。また、気候変動問題への取り組みについても出遅れが指摘されている。日本の発電電力量に占める再生可能エネルギー発電の比率は18.0%(2019年度、資源エネルギー庁)と主要国(G7、スペイン、中国)の中では下から2番目である。他にも挙げればいろいろあるだろう。もちろん様々な背景があり、一概にそれが悪いと評価すべきことではない。ただ、現代のグローバル化が進む経済・社会においては、世界から違和感を持たれることはビジネスの面でも得策ではない。

なぜこうも出遅れが目立つのか。ひとつの要因としてグローバルの潮流変化に対する日本の感度の低さを否定できないだろう。近年は特に欧州における議論が世界をリードする傾向にある。アジアの日本がインナー・サークルに加わるのは容易ではないかもしれないが、オブザーバーでもよいからもっと積極的に議論に参加し、それを国内にフィードバックさせる努力は欠かせない。

もっとも、仮に世界の議論がわかっていても、それを国内の政策に反映させるのはまた難しい話となる。ひとつに、日本の経済規模が大きく豊かになっている現状が邪魔をする面があるだろう。欧州であれば多くの国は一国としての経済規模は大きくはなく相互依存の関係にあるため、皆で議論してルールを作っていこうという意識が強いと思われる。その点、日本は世界の潮流に乗り遅れても、目先的にそう困ることはない。戦後の高度成長の中で培った習慣や考え方を変えるのは非常にパワーが必要となるため、現状維持あるいは微修正を基本形とする方向に流れやすい。悪く言えば、過去の高度成長の果実にあぐらをかいている状態ともいえるだろうが、これはそう簡単に修正できるものではなさそうだ。

とはいえ、いくつかの面での出遅れを嘆いてばかりいても仕方ない。日本には世界の先端を行くような技術や、共助の精神を持つ国民性、豊かな伝統文化など、世界に誇るべき面はいくらでもある。強みのある分野でオピニオンリーダーとして他国と積極的に議論を交わすことに力を入れたほうが建設的に違いない。特に、これからの世界で重要になるであろう高齢化や災害対応といった分野で、これまで日本が蓄積してきた経験をもとに世界の議論・取り組みをリードすることはできるのではないか。

もちろん、喫緊の課題としてワクチン、ジェンダーギャップ、気候変動対策について世界にしっかりキャッチアップすべきことは言うまでもない。

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保志 泰
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