人的資本の情報開示による従業員との対話の必要性
2021年03月16日
投資家を中心に人的資本の情報開示に対する関心が高まっている。昨年8月に米国証券取引委員会は上場企業に人的資本の情報開示を義務付けることを発表し、9月には日本でも経済産業省から人材版伊藤レポート(※1)が公表された。人材版伊藤レポートでは、経営戦略と人材戦略を連動させたうえで、人材戦略を従業員や投資家に積極的に発信し、対話することの重要性が示されている。人的資本マネジメントの規格であるISO30414に対する認知も進み、人的資本の情報開示に対する機運の高まりを感じる。
人的資本の情報開示のターゲットは、主に投資家を想定しているようだが、投資家に加え、自社の従業員向けに発信することにも大きな意義があると考えている。人材版伊藤レポートでも「人材は、資金とは違い心や意思がある資本であり、ただ業務を命じたり、人材戦略の内容を通知したりするだけでは動かない。従業員に対し、会社の存在意義や、どのような社会課題の解決を目指すのか等について、積極的に発信し、対話すべきである。」という一節があるが、まさにそのとおりだと感じる。
今般の新型コロナウイルスの流行だけでなく、社会のデジタル化の急速な進行などにより、経営陣は経営戦略の軌道修正を迫られている。一方、従業員においても、価値観の多様化や求められるスキルの急速な変化への対応を求められている。このような状況においては、経営陣と従業員の間で考え方にズレが生じやすく、経営戦略が実行レベルまで落とし込まれないという悩みを抱えている企業も多いのではないだろうか。
この課題を考える際、企業戦略を検討するための経営資源の相互関係を示した7S(※2)というフレームワークが参考となる。7Sはハードの3S(Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(システム・制度))とソフトの4S(Shared value (共通の価値観・理念)、Style(経営スタイル・社風)、Staff(人材)、Skill(スキル・能力))に分けられるが、ハード(戦略や組織構造など)とソフト(価値観、スキルなど)が連動性を欠いていると、戦略が思うように機能しない。
ハードの3Sとソフトの4Sの相互関係を強め、経営戦略の一体的な実行を促すためは、ハードを規定する経営陣とソフトを担う従業員の対話が必要不可欠である。人材戦略を含む人的資本に関する情報が従業員に向けても積極的に発信されることで、経営陣と従業員の対話が深まり、経営陣の策定した戦略が現場まで浸透すると同時に、従業員にとっても仕事の意義をより感じられるような効果を生むことを期待したい。
(※2)マッキンゼー・アンド・カンパニーが提唱したフレームワーク。ハードの3Sは意思があれば変更可能とされる一方、ソフトの4Sは短期間で変えることは難しいとされる。
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- 執筆者紹介
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マネジメントコンサルティング部
主任コンサルタント 小林 一樹
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