1. トップ
  2. レポート・コラム
  3. コラム
  4. 新型コロナウイルス感染症、ワクチン普及の障害は?

新型コロナウイルス感染症、ワクチン普及の障害は?

2021年02月08日

経済調査部 エコノミスト 増川 智咲

IMFは1月に発表した「世界経済見通し」の中で、2021年の世界経済成長率の見通しを前回(2020年10月)から+0.3%pt上方修正して、前年比+5.5%とした。新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種が早期に始まったことで、想定していたよりもワクチンの普及が早まる前提となったことが上方修正の背景にある。

果たしてワクチン接種は順調に進むのか。懐疑的な声も聞かれる。その理由として主に指摘されているのは、世界的なワクチン普及における物理的な障害である。まず、ワクチンへのアクセスがその一つに挙げられる。高所得国に比べ、低所得国ではワクチン購入のための資金が十分でないため、ワクチンの確保に出遅れている。次に、ワクチンの生産能力の限界である。ワクチンの購入予約をしていても、生産の遅れから調達に時間がかかるケースが見られる。EUが、域内でのワクチン供給不足を理由に、域外へのワクチン輸出を認可制にしたニュースは記憶に新しい。そして、ワクチンの輸送・管理も課題だ。医療インフラが整っていない国では、一部のワクチン輸送に必要とされるコールドチェーンが整備されていないほか、戸籍等が整備されていない国では、接種者の管理も難しい。

これらの物理的な障害の例だけを取っても、世界的なワクチン普及への難しさがうかがえるが、筆者はこれに、情報不足というハードルもあると考える。例えば、感染拡大が顕著であるフィリピンのマニラ首都圏で、2020年12月に実施された調査(フィリピン大学のシンクタンク「OCTAリサーチ」)によると、接種を希望すると答えた人の割合が25%、決めていない人が47%、受けないと答えた人が28%であった。接種に消極的な理由として、政府がワクチンの重要性や安全性に関する情報を十分に提供していないからと指摘する声がある。情報の不足が、ワクチン普及の障害となっている一例である。

日本では生後2か月から小児肺炎などの定期予防接種を受けることとなっている。その数は多く、また接種スケジュールもタイトでしばらくは毎月何らかの予防接種に通わなければならない。1回に4種のワクチンを両腕・両足に打ち、さらに経口ワクチンも接種といったフルコースとなることもある。打たれている子供はもちろん、見ている親も泣きたくなることがあるが、それでも親が予防接種に積極的であるのは、ワクチンの重要性や安全性、副反応の種類や出たときの対処方法を事前に把握しているからである。

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、ワクチンの普及は時間との競争であり、通常の予防接種よりも迅速性が問われる。そのため、ワクチンに対する十分な情報が、通常の予防接種よりも整っておらず、発信できる情報量が制約される可能性はある。しかし、それでもなお、その安全性や有効性に対する情報発信がなおざりになってはならない。ワクチンの接種が個人の判断に任せられるのであればなおさら、情報にアクセスできる機会が十分に確保される必要がある。それが、ワクチンの接種率を高め、パンデミック収束の助けとなると考える。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

増川 智咲

執筆者紹介
経済調査部
エコノミスト 増川 智咲