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内閣府中長期試算に見るポストコロナの財政運営の課題

2021年01月28日

経済調査部 シニアエコノミスト 神田 慶司

2021年1月21日、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」(以下、中長期試算)を公表した。約半年前に公表された前回と比べると、2021年度の財政見通しは追加の経済対策などを反映して悪化したが、その後の見通しはおおむね維持された。2つのシナリオのうち、高めの経済成長が想定されている「成長実現ケース」では、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)は2029年度に黒字化する見込みだ。

こうしたシナリオを実現するには全要素生産性(TFP)上昇率の大幅な引き上げが必要である。成長実現ケースでは、TFP上昇率が「足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する」と想定されている。だが成長戦略の取り組みとTFP上昇率との関係は極めて不明確だ。安倍前政権は貿易自由化やインバウンド需要の拡大、法人減税、働き方改革関連法の成立など幅広い分野で実績を残したが、TFP上昇率は当初の期待通りには高まらなかった。菅政権が目指すデジタル化や脱炭素社会の実現などは重要な取り組みだが、これらによってTFP上昇率が3倍超に高まるという定量的な裏付けはない。

歳出見通しの蓋然性にも疑問符が付く。成長実現ケースにおける国の一般会計の社会保障関係費は対GDP比で低下が続き、2029年度には幼児教育・保育の無償化前である2018年度の水準を下回る見込みである。これは緩やかな上昇が続くという、内閣府が厚生労働省などと2018年5月に作成した社会保障見通しとは大きく異なる。一方、2022年度の非社会保障関係費対GDP比は2000年代以降の最低水準を下回り、その後も緩やかな低下が続く見込みである。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大の悪影響が残る間は経済対策の必要性が大きい。また、感染拡大前から補正予算の編成が常態化していたことを想起すれば、感染収束後であっても歳出水準は高止まりする可能性がある。

こうした点を考慮した当社の財政見通しは、中長期試算の保守的なシナリオである「ベースラインケース」よりも厳しい(※1)。当面は新型感染症への対応が課題だが、ポストコロナでは経済実態に配慮しつつ歳出を感染拡大前の水準まで引き下げ、全世代型社会保障の実現に向けて給付と負担のバランスを大幅に見直すことなどが財政運営面では求められる。

さらに、コロナ危機対応で急増した歳出の財源確保に向けた議論も必要だ。東日本大震災後に策定された基本方針(2011年7月)では、「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し負担を分かち合う」ことが明記され、歳出の削減や復興増税、政府保有株の売却などが実施された。「百年に1度の衛生上の危機」ともいわれる今回においてもこうした考え方を踏まえる必要がある。また家計や企業の将来負担が重くならないようにするためにも、現在のコロナ危機対応策は予算の規模の大きさではなく、質や内容を追求すべきだ。

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神田 慶司

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