第227回日本経済予測

高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証

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2025年11月21日

サマリー

  1. 実質GDP成長率見通し:25年度+0.9%、26年度+0.7%:本予測のメインシナリオにおける実質GDP成長率は25年度+0.9%、26年度+0.7%(暦年ベースでは25年+1.3%、26年+0.5%)と見込む。春闘での高水準の賃上げ継続や物価上昇率の低下などにより、実質賃金(1人あたり実質雇用者報酬)の前年比はプラス圏で推移しよう。家計の所得環境の改善や政府の経済対策、緩和的な金融環境の継続、高水準の家計貯蓄などが日本経済を下支えしたり、押し上げたりするとみている。他方、米中を中心とした外需の下振れリスクには警戒が必要だ。中国政府による渡航自粛要請が長期化し、対中輸出にも悪影響が広がれば、日本の実質GDPは0.4%程度下押しされる恐れがある。米国では高インフレに伴う金融引き締めの長期化で景気が減速するリスクがある。また、トランプ米政権による高関税政策(トランプ関税)や株安、不法移民政策などで米国経済が下振れした場合、日本の実質GDPへの影響は今後5年で最大▲0.33%程度と試算される。
  2. 日銀の金融政策:賃上げと価格転嫁の循環などにより、CPI上昇率の基調は26年度にかけて同+2%程度で推移する見込みだ。日銀は経済・物価・金融情勢を注視しつつ、25年12月に短期金利を0.75%に引き上げ、その後は半年に一度程度のペースで0.25%ptの追加利上げを行うと想定している。予測期間の終盤には短期金利は1.25%に達する見込みだ。実質金利は予測期間を通してマイナス圏で推移し、当面は緩和的な金融環境が維持されるだろう。
  3. 論点①:実質賃金引き上げに向け高市政権に求められる政策とは?:直近20年間の日本の実質賃金上昇率は米国のそれを年率1.2%pt下回っており、背景には生産性上昇率の低さと平均労働時間の減少がある。生産性低迷を招いている要因として、全産業に共通するのはICT資本の弱さだ。また、産業別に課題を整理すると、個人向けサービス業では消費マインドの回復と省力化投資が重要だ。情報通信業と専門知識・派遣・事務代行では設備投資の拡大と世界的に増加する需要の取り込み策の両輪で投資を成長に結びつける必要がある。40年度までの実質賃金は、直近の経済状況を将来にわたって投影したシナリオでは年率+0.7%の見込みだ。さらに、各種政策で企業の投資行動などが大きく変化し、労働市場改革や社会保障改革なども進展すれば、実質賃金の伸びを同+1.2~1.6%程度まで高めることも可能だ。
  4. 論点②:給付付き税額控除を用いた税と社会保障の一体改革:高市早苗政権は税・社会保障の負担と給付の構造につき一体改革を行う方針で、給付付き税額控除をその手段と位置づける。日本では低所得世帯全般の税・社会保障の純負担率が高い一方で、低所得の子育て世帯に対する給付や税の軽減が特に少ない。これらを調整するための給付付き税額控除導入案につき、諸外国の例を参考に4類型15ケースの財政規模を試算し、執行面の課題を検討した。米国では約3割の誤支給が生じており、資産や所得の精緻な捕捉か誤支給の起こりにくい制度設計が課題となる。また日本では、社会保険の被扶養者や年金生活者のいる世帯では純負担率が低く、新たな給付の対象とすることは適当でない。こうした現行制度の制約の下で早急に負担調整を行う場合は、労働所得に係る社会保険料の範囲で給付を行う「社会保険料還付付き税額控除」の導入が有力な選択肢になる。これを第1ステップとした上で、所得や資産を捕捉する枠組みや税・社会保障制度の全体像などについての検討を進め、ニーズを的確に反映した精緻な制度へのアップデートを図るべきだ。

【主な前提条件】
(1)為替レート:25年度150.4円/ドル、26年度155.5円/ドル
(2)原油価格(WTI):25年度62.4ドル/バレル、26年度60.7ドル/バレル
(3)米国実質GDP成長率(暦年):25年+1.9%、26年+1.9%

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