2021年01月26日
1月20日、米国ではバイデン新大統領の就任式が行われた。バイデン大統領が就任直後に行った執務として広く報道されたのが、地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」復帰に向けた手続きへの署名である。トランプ政権下、国連に対して離脱の通告をしたのが2019年11月、通告から1年後に離脱手続きが終了するルールのため、昨年11月に離脱が成立したところであった。温室効果ガス排出量世界第2位の米国が国際的な枠組みに復帰することは、国際社会にとっても、2050年カーボンニュートラルを目指す日本にとってもポジティブなニュースであると言えよう。
先日、自宅の本棚を整理していて、クリントン政権の副大統領だったアル・ゴア氏が書いた「地球の掟」を見つけた。地球環境問題について幅広い層に訴えかけ、当時ベストセラーになった。話題の本なので読んでみたと記憶している。
この約30年前に書かれた本で、ハワイのマウナ・ロア観測所で1958年から大気中のCO₂の観測が行われていることを知った。その数値を確認すると、観測開始の1958年12月のCO₂濃度は314.67ppm、本発売時の1991年12月は同354.99ppm、そして直近2020年12月は同413.95ppmだった(※1)。1958年から1991年までの33年間でCO₂濃度は12.8%増加したのに対し、1991年から2020年の29年間で16.6%増加している。地球環境問題が世界的にクローズアップされ、幅広く省エネや温暖化対策が進んだはずのこの30年で、CO₂濃度の増加速度は落ちるどころか加速している。それは様々な要因があることは承知しているものの、私にはショックだった。
また、WMO(世界気象機関)の温室効果ガス年報の第16号には、COVID-19感染拡大に伴う移動制限による大気中のCO₂濃度への影響についての考察が掲載されていた。これによれば2020年は「予備的な試算では、2019年の水準と比較して、世界全体の年間排出量は4.2%から7.5%の削減となることが予測されている」(※2)とされ、この程度の減少は、年々の自然変動の範囲内であり、短期的にはなんら影響を及ぼさない、とのこと。世界中で人の移動や経済活動が止まった状況であっても地球全体のCO₂濃度には大して影響しない、という事実を前にしたとき、私は無力感や虚しさすら感じた。
地球環境を変えていくことは容易ではない。米国のパリ協定復帰をきっかけに、日本をはじめ世界各国が改めて危機感を共有し、温暖化対策の技術革新や環境整備が加速化することを期待したい。
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コーポレート・アドバイザリー部
主任コンサルタント 宮内 久美
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