新たな科学技術・イノベーション政策への期待
2021年01月20日
1995年に制定された「科学技術基本法」(以下、「旧法」)は、昨年6月の法改正により、2021年4月から「科学技術・イノベーション基本法」(以下、「改正基本法」)として施行される(※1)。複雑化や深刻化が進む課題に対峙しながら、持続可能な社会を実現していく上で、人間や社会についての深い理解や洞察が重要になっていることなどを踏まえ、改正基本法では旧法で除外されてきた「人文科学のみに係る科学技術」が振興の対象に加えられる。改正基本法には、新たに「イノベーションの創出」についての定義が置かれ、「科学技術の水準の向上」と「イノベーションの創出の促進」が並列する目的として位置づけられている。
旧法が規定していた「科学技術の振興に関する方針」は、「科学技術・イノベーション創出の振興に関する方針」に改められ、そこには的確な対応が図られるべきものとして、三つの課題が例示されている。旧法の下で振興の基本理念や必要な事項等を定めてきた「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」も併せて改正され、産学官連携の仕組みや中小企業技術革新制度(日本版 SBIR 制度)などが見直される。内閣府にも「科学技術・イノベーション推進事務局」や「健康・医療戦略推進事務局」が設置されるなど、政府がトップダウンで政策を進めるための司令塔機能が強化される。
今回の法改正に伴って、旧法に基づいて5期25年にわたって策定されてきた「科学技術基本計画」も「科学技術・イノベーション基本計画」に変わり、21年度からは第6期にあたる新たな基本計画が動き出すことになる。旧法が制定された頃からの研究費の推移をみると、研究費の総額は5兆円余り増加し、19年度は20兆円近くに達している(※2)。一方、第5期基本計画の振り返りでは、我が国の研究力の低下に対する懸念が高まっていることも指摘されている(※3)。研究費が増加した分の多くは、製品や市場に近い「開発研究」に充てられ、研究費全体に占める開発研究費の比率も上昇している。
イノベーションと呼ばれる事例の多くは、地道な研究の積み重ねやそれらの組み合わせを基礎にしている。革新的なイノベーションには、それまでの延長線上にある発想を覆すところから生まれるものも少なくない。イノベーションの創出を促進するためには、多様で独創的な研究を充実させ、ボトムアップで全体を押し上げていくことも重要であろう。科学技術・イノベーションは、現在の社会が直面する課題を解決するだけでなく、将来の社会を形づくる重要な基盤でもある。改正基本法や新たな基本計画の下で進められる政策が、科学技術とイノベーションの均衡ある発展に結びつくことを期待したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2021年02月26日
有価証券の評価②
「満期保有目的の債券」の分類基準と評価方法について解説
-
2021年02月26日
2021年1月鉱工業生産
生産指数は春節要因や設備投資の回復を受け3ヶ月ぶりの上昇
-
2021年02月26日
新局面を迎えるナウキャスティング
新型コロナが促すマクロ経済分析へのデータサイエンスの本格的導入
-
2021年02月25日
量的緩和政策下の金融調節
金融調節から非伝統的金融政策を考える②
-
2021年03月02日
コロナ禍をきっかけに非製造業の労働生産性は高まるか
よく読まれているコラム
-
2015年03月02日
宝くじは「連番」と「バラ」どっちがお得?
考えれば考えるほど買いたくなる不思議
-
2006年12月14日
『さおだけ屋は、なぜ潰れないのか』で解決するものは?
-
2020年10月19日
コロナの影響、企業はいつまで続くとみているのか
-
2017年07月25日
ほとんどの年金生活者は配当・分配金の税率を5%にできる
所得税は総合課税・住民税は申告不要という課税方式
-
2015年01月05日
二つの日経平均先物の価格から分かること