トリプルブルーの政策インプリケーション

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2021年01月13日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

1月5日に米国ジョージア州で行われた連邦議会上院2議席を巡る決選投票では、接戦の末、民主党候補者のウォーノック氏とオソフ氏の勝利が確定的となった。この結果、民主党は上院で50議席を確保し、大統領、上下院多数党の全てを民主党が占める「トリプルブルー」が実質的に達成されることになった(※1)。

バイデン次期大統領が掲げる公約の実現可能性が高まったことに間違いはないだろう。だが、上院で50議席を確保しても、民主党が単独で法案を可決するためには、たった1人の造反も許されない。米国議会は党議拘束が緩やかであり、特に任期が6年間と長い上院議員は、所属政党に必ずしも縛られない投票行動をする議員が少なくない。このため、民主党内でコンセンサスが得られづらい極端な主張の政策を実現することは難しいと考えられる。

一方、民主党支持者を中心に国民の関心が高く、民主党内で比較的コンセンサスが得られやすい政策はヘルスケア関連であり、バイデン政権はオバマケアの拡充などに向けて早期に動き出すとみられる。2017年にトランプ政権下で成立した税制改革の一環として、オバマケアによって定められた保険未加入に対する罰金税が廃止されたことで、国民が医療保険に加入するインセンティブが低下した。結果として、2019年の保険未加入者数は10年ぶりの増加に転じており、民主党の危機感は強い。また、コロナ対策という文脈からも、ヘルスケア関連制度の充実は正当化されやすい状況にある。

民主党は上院の実質的な過半数を握ったものの、フィリバスター(議事妨害)を回避するために必要な60議席には達していない。したがって、民主党がオバマケアの拡充を実現するために、上院の単純過半数での可決が可能となる「財政調整措置」を活用し、予算策定プロセスの一環として議論が進める公算が大きい。となると、同時にオバマケア拡充のための財源として増税が議論される可能性も十分考えられよう。バイデン氏は富裕層に対する課税強化や法人税率の引き上げを公約としているが、増税それ自体に格差是正という狙いがあるとともに、オバマケア拡充のための財源として活用することを明言している。

バイデン氏は優先的に取り組むべき課題としてコロナ禍への対応を挙げていることから、経済への悪影響が見込まれる増税の議論は棚上げになるとの見方は少なくないように思われる。しかし、大統領所属政党は下院中心に中間選挙で議席数を減らしやすいという経験則を踏まえれば、2022年の中間選挙後にはトリプルブルーという民主党にとって有利な状況が崩れることも考えられる。このためバイデン政権・民主党が公約の実現を急ぎ、歳出拡大とセットで増税が意外にも早く議論される可能性には注意が必要であろう。

(※1)上院で賛否同数の場合、上院議長を兼ねる副大統領に投票権が発生するため。

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橋本 政彦
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