在宅勤務はオリンピックのレガシー?

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2020年03月04日

欧州でも、新型コロナウイルスの感染が猛威を振るっている。イタリア北部の大都市ミラノ、ベネチアをそれぞれ州都とするロンバルディア州、ヴェネト州及びエミリア=ロマーニャ州の感染者数の大幅な増加が続き、主にアルプスのスキーリゾート地にある複数地域での感染拡大を受けて、一部自治体が封鎖された。3月1日時点でのイタリアでの感染者数は、2月28日からの2日間で約2倍に急増し、1,694人にまで達した。近隣のスイスやオーストリアなどでも感染が次々に確認され始めており、各国政府は早期の隔離対応などに躍起となっている。

英国では3月1日発表時点での感染者数は36人にとどまっているものの、初めて英国籍の死者(クルーズ船で感染し日本国内で入院)が日本で出た。そのため、連日、感染拡大が紙面を賑わし、7月24日に開幕する東京五輪の開催を心配する声も増えつつある。そのような折、ロンドン市長選の2候補が、東京開催が断念された場合には、ロンドンでの代替開催が可能という考えを示した。奇しくも1896年より始まる近代オリンピックは、1940年東京大会と1944年ロンドン大会が第2次世界大戦により中止された以外は全て決行されている(ただしロンドン大会は1948年に繰り越し開催されたため、実質的な中止は1940年の東京大会のみ)。

確かに、2012年大会の開催地ロンドンには、当時の設備が幾つかは残っている。オリンピック・スタジアムは、既にサッカー、プレミアリーグのウェストハム・ユナイテッドの本拠地になっているものの、トラックは残されているため、開・閉会式や陸上競技自体は実施可能だろう。ただ、当時のオリンピック会場周辺は、現在は公園となり、車1台入ることができない。綺麗な芝生が広がり、人々がピクニックや散歩などを楽しむ様子が見受けられる。また、オリンピック選手村として利用された建物は、現在ではマンションに改装され、一部、格安で主に子供のいる若いカップルを優先に販売されてしまっている(うち半分は低所得者向けの公営住宅として利用)。このため、実際に残り5ヵ月弱の準備期間で、ロンドンでの五輪開催などは不可能だ。

今年のロンドン五輪の開催は不可能だが、2012年大会当時のロンドン五輪から学ぶべきことは多い。五輪開催中、ロンドン内に通勤する会社員の多くは混雑緩和のために、在宅勤務(日本でいうテレワーク)が推奨された。このため懸念された交通網の混乱もなく、むしろロンドン市内は閑散としていた。その後、オリンピックレガシーとして、金曜日に在宅勤務を導入する企業が一気に増加した。英国では公務員の多くも、週1~2回は在宅勤務を前提とした勤務形態となっている。旧知の英国人官僚も、最近は定期券を買ったことがないと自慢しているほど、その定着ぶりがうかがえる。

在宅勤務について作業効率が悪い、あるいは見えないことをいいことに実際に仕事をしないといった懸念が指摘されている。しかし、在宅勤務が広く普及したロンドンで長年勤務している筆者の経験からいうと、結局、オフィスで仕事ができる人は在宅でも十分できるし、仕事に熱心でない人は在宅であっても同様だと感じている。むしろ仕事ができる人は、在宅勤務の場合でも自分の空き時間をさらに効率良く使い、子供のお迎えや必要な所用などを組み込んで作業するため、さらに仕事の効率が良くなる印象すら受ける。 

日本でも各企業や自治体が、新型コロナウイルスの感染拡大という一時的な対応でなく、本格的な在宅勤務の導入を真剣に検討することはできるのではないだろうか?少なくとも新型コロナウイルスが契機ではなく、東京五輪を成功させ、在宅勤務が真のレガシーとなることを望むべきではないだろうか?

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菅野 泰夫
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 菅野 泰夫