“●●レス社会”の行き着く先

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2020年02月06日

キャッシュレス(cashless)に代表されるように“レス(less)”が付随する言葉を検索してみると多くの言葉がヒットする。社会のあらゆる場面でこれだけレス化が進んでいる状況を考えると、キャッシュレス社会などの言葉もあり、“レス社会”と呼んでもいいかもしれない。ただ、レス社会の行き着く先はどうなるのであろうか。ほとんどの“レス化”の目的は明確であるが、レス社会が人に与える影響をもう少し考えてもいいかもしれない。一方、時代の潮流にのって“目的レス”のレス化がはびこっている。特にデジタル化という言葉は一種の“マジックワード”(何にでも使える便利な言葉)になっており、レス化を過度に助長している面もある。

冒頭で述べたキャッシュレスの目的は、支払う際にクレジットカード、スマホの決済アプリ等を利用することで、現金の利用を“なくす”ことによる消費者の利便性の向上である。静脈などの身体の一部を活用した決済も導入されている。顔認証と決済の組み合わせの実証実験が進んでおり、“気づかない”“気にしない”決済が、将来的には主流となる可能性がある。このように目的レスではないが、利便性の向上の目的はリミットレスとなりがちだ。究極の利便性の向上は人の介入を究極的に減らし、AIが人の役割を代替する“レス社会”となる。

企業でもレス化は進む。効率性向上を目的としたレス化は減らす・なくすものを、最初は使うモノ(ペーパーレス)、それを使う場所(会議レス)、作る場所(ファブレス)、使う人・作る人(ヒューマンレス)を減らす・なくすことに行き着く。現代において生産性を向上させる常套手段となっている。さらに、自動化が進むと、ヒューマンレスとなり業務への関与が極端に少なくなるジョブレスの状態に置かれ、人の“経験レス”、“知識レス”が進行する。それに代替するのがAIとなる。AI自体の働きは時間、体力等の人が本来持つ制約がないリミットレスであり生産性は飛躍的に向上する可能性がある。

AIは経験に頼らず、過去から現時点のデジタル化されたビッグデータを分析して、行動を決定する。スマートフォンが普及し続けることで、検索エンジンの運営者であるプラットフォーマーには膨大な情報が積みあがっている。情報が膨大になればなるほどAIの分析力は向上していく。しかし、AIの分析の思考はブラックボックスであり、人の介入ができていない。

問題は、人とAIのどちらがレス社会のインテリジェンスの主導権を握るかである。つまりドイツのオットー・フォン・ビスマルクの言葉の「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。」の賢者に当てはまるのは人かAIかである。賢者とは“先人の知恵及び知識から予め言動の是非を知る者”といえよう。特に“是非を知る”ための知恵が人にとって重要であろう。知恵とは、人の判断・思慮分別と知識が相互補完関係にあるバランスの取れた“インテリジェンス”といえよう。

人は歴史からの教訓、社会との関係の中で知恵を生み出してきたが、AIには社会性はない。AIが社会性を具備するには時間がかかろう。とすれば賢者がAIとなるレス社会を回避する知恵が人に求められてこよう。誰一人取り残さない持続可能な社会を目指すというSDGsの理念も人の知恵から生み出されてきた。知恵は人にとって“プライスレス”であり続ける必要がある。

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内野 逸勢
執筆者紹介

金融調査部

主席研究員 内野 逸勢