「金融版Amazon」の成否は金融リテラシーの向上がカギに

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2020年02月05日

インターネットを使うことが当たり前になり、買い物も実店舗ではなくインターネット上のECサイトですることが増えている。総務省「令和元年版 情報通信白書」によれば、インターネットの利用率(個人)は約8割であり、5割超が利用の目的・用途に「商品・サービスの購入・取引」を挙げている。Amazonや楽天、Yahoo!ショッピングなど大手ECサイトを見ると、書籍や衣服、家具、家電、食品、様々なものが販売されている。複数の店舗に行く必要なく、1つのサイトで買い物ができ、消費者にとって非常に便利な時代になった。

こうした利便性を、金融の世界に求める動きが強まっている。2019年12月、未来投資会議が公表した「新たな成長戦略実行計画策定に関する中間報告」(以下、中間報告)では、銀行・証券・保険の全ての分野の商品・サービスを扱えるようにする新たな仲介業を設ける方針が示された。現在も銀行・証券・保険の全ての分野の商品・サービスを扱う仲介業を営むことは不可能ではない。しかし、各業法に設けられている規制に対応する必要があり、参入障壁が高いという課題があった。新たな仲介業を設けることで、例えばインターネット取引を通じて銀行・証券・保険の全ての分野の多様な商品ラインナップを取り揃える事業者が登場し、利用者は、スマートフォン上で金利や手数料等を比較しながら、多様な金融商品の中から最も自分にあったものを選択できるようになることが期待されている。言ってみれば「金融版Amazon」を作ろうということだ。

ただ、新しい仲介業に参入する業者が登場したとして、利用者側がそれを利用するのかは不透明だ。「多様な金融商品の中から最も自分にあったものを選択できる」(中間報告p.12)のは、利用者側に十分な金融リテラシーがあることが前提だ。金融広報中央委員会は「最低限身に付けるべき金融リテラシー」についてアンケート調査を実施しているが、2019年の調査結果を見ると、金融知識のうち「金融・経済の基礎」「保険」「資産形成」の分野の正答率は5割程度であった(※1)。同調査では「金融教育が必要」という回答が約7割を占める一方、「学校等において金融教育を受けた人の割合」は1割以下であり、また「家庭において金融教育を受けた人の割合」も2割程度であった。

金融サービス・商品は利用に伴うトラブルも少なくない。「金融版Amazon」の成否は、学校・家庭における金融教育の推進、および金融リテラシーの向上が重要なポイントになるのではないか。

(※1)金融広報中央委員会「金融リテラシー調査 2019年」より。

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太田 珠美
執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 太田 珠美