哲学対話の力を企業に

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2020年01月15日

企業の力を伸ばすための試みとして、「哲学対話」を研修に取り入れたり、哲学的思考を身につけるためのワークショップを開催したりする例がある。

「哲学対話」とは何か(それ自体が哲学対話のテーマとなるのだが)、本稿では「一般の人たちが素朴だが真摯な問いを重ねることで、お互いの思考を引き出していく対話のこと」と定義する。専門的な知識の持ち主が、一人で先行の哲学書を読み論文を書く、従来の哲学の有り方とは対極の動きである。源流は2つあって、1つは1970年代にアメリカではじまった「子どものための哲学対話」。もう1つは1990年代にフランスで始まった「哲学カフェ」と言われている。日本でも、前者は学校を中心に、後者は喫茶店を借り切って行う形式で一般の人を中心に日々哲学対話が盛んに行われている(※1)。

筆者は「哲学カフェ」の愛好者であり、都内を中心にもう2、30回参加させていただくことができた。そして数多くの哲学対話を通じて、うまくいっている対話は以下のような特長を備えていると感じた。

1.安全・安心であること(いきなり否定されたり、からかわれたりしないこと)
2.マウンティング行為が少ないこと(外部の有名な権威を借りた振る舞いをしないこと)
3.答えよりむしろ、新たな問いを活発に生みだせることに力点が置かれていること
4.どれだけ話したかではなくどれだけ考えられたかを目標としていること

筆者は哲学対話を企業に応用することで、さらに興味深い哲学対話ができるのでは、と期待している。例えば「イノベーションを人為的に加速できるか」や「法人営業とはどうあるべきか」というテーマはどうだろうか。職場の隣の人がイノベーションや営業活動について、そもそもどのように考えているのか、実は知る機会は少ないのではないか。もちろんこういったビジネスに直結したテーマは哲学といえるか、という方もおられようが、過去には「うどん」を題材とする哲学カフェが開催された事例もある。深まった議論から思わぬ新たな問いや思考が得られるかもしれない

そして、哲学対話を企業に導入することで以下のようなメリットがあると考えている。

A)社員一人ひとりの思考力を高められること
B)実は曖昧だった概念・理念を共有化できること
C)安心感の強いチームビルディングができること

Cは特に説明が必要だろう。

筆者は哲学対話の効用として、Googleが「アリストテレス計画(※2)」で得た結論(効果的なチームを可能とする条件)に通じるものが身につくと思っている。前述したうまくいっている哲学対話の条件1~4を満たした状態のチームで話し合うことで、対話の土台が築かれる。そのことで、メンバー間を隔てる垣根が下がり、わだかまりが減ったり、協力し合おうという雰囲気が醸成されたりすれば、哲学対話はチームを強くするためにも有用だろう。

自分の言葉で考えることを習慣づけ、強い組織を作ることを目指して、あなたの職場でも哲学対話を取り入れてみてはいかがでしょうか?

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江藤 俊太郎
執筆者紹介

データアナリティクス部

コンサルタント 江藤 俊太郎