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ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成に向けて転換点を迎えるフィリピンの医療保健制度改革

2019年12月25日

依田 宏樹

2019年、フィリピンの医療保健制度改革が一つの転換点を迎えている。ドゥテルテ大統領は2月、医療サービスの一部無償化や自己負担の軽減などを盛り込んだユニバーサル・ヘルスケア法に署名した。同法の成立により全ての国民が自動的に保健省傘下のフィリピン健康保険公社(フィルヘルス)が運営する国民健康保険プログラムの適用対象となり、手頃な価格で一定の医療サービスを受けることができる法的枠組みが整ったことになる(2019年6月末時点の人口カバー率は87%、出所:フィルヘルス)。実際の運用はまだこれからだが、まずは一部の病院施設で試験的に導入される見込みである。大きな経済格差が健康格差にもつながっているフィリピンでの同法の整備は、画期的な前進と評価できるだろう。

ドゥテルテ政権は、保健医療の中長期計画である保健省の「フィリピン保健アジェンダ2016-2022」において、国連のSDGs(持続可能な開発目標)達成を明確に掲げている。今回の法整備は、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」のターゲット3.8「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成」などに大きく貢献するものと考えられる(※1)。

ドゥテルテ政権は他にも、2017年7月に指定場所以外での喫煙を禁止する喫煙禁止令を制定し、2018年1月には加糖飲料税を導入するなど保健関連の法整備を進めている。背景には、経済成長で所得水準が高まる中、食生活の欧米化などにより従来の感染症に加えて心疾患やがん、糖尿病といった生活習慣病も10大死因の上位を占めるようになってきていることがある。このため、医療保健関連の制度整備等を通じて、国民の健康を増進させる狙いがあるようだ。

ユニバーサル・ヘルスケア法の成立により制度としては整備されたわけだが、実際に運用する上では課題が残っている。人口増が進む中、全国の医療施設の整備・充実化といったハード面の整備、患者に対する医師の数などソフト面の整備に加え、何よりも財源確保が鍵となる。実際、保健省は2024年までに1.5兆ペソ(約3.2兆円、2019年12月16日時点)もの財源が必要になると見積もっている(※2)。今後は、予算確保のために大規模税制改革の一環である悪行税(酒やタバコなどに課される税)の税率引き上げの他、フィルヘルスの保険料も段階的に引き上げることなどが計画されているが、必要額が大きく確保には困難が予想される。法律に基づき全国民に実際に目指すサービスを提供できるようになるまでにはまだ時間を要する可能性が高いが、法整備を手始めに財源確保と必要インフラの整備が徐々にでも進むことで、国民の健康格差の縮小と医療サービスの底上げに寄与するものと期待できるだろう。

(※1)世界保健機関(WHO)によると、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とは、全ての人々が基礎的な保健医療サービスを、必要な時に負担可能な費用で享受できる状態を指す。

(※2)The Manila Times, ”Universal health Care Law IRR signed”(2019年10月10日付)より。

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