住宅関連費用が老後に向けた資産形成を阻害しないためには

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2019年09月30日

2019年6月に公表された金融審議会「市場ワーキング・グループ」の報告書「高齢社会における資産形成・管理」を契機に、老後資金不足の問題への関心が高まっている。これに対応するためには早期からの資産形成が重要であるが、住宅関連の費用負担が、その着実かつ効果的な老後のための資産形成の阻害要因となる可能性がある。

まず住宅を保有する場合、過度な負債の負担が資産形成に負の影響を及ぼし得る。総務省「家計調査」を用い、負債を年間収入で割った負債倍率を確認すると、世帯主が30歳代の世帯では、2002年度には1.1倍であったが2018年度には2.2倍に上昇した。負債の約9割は住宅・土地購入のためのものである。極めて低い金利環境等を背景に、住宅取得の際の自己資金の割合が低下したことが負債の増加に影響している可能性がある。加えて、日本では中古住宅市場が未発達であることから、家計資産の中で大きな比重を占める住宅資産が非流動的(現金化が困難)であることにより、流動性の高い預貯金への選好が高まっている可能性がある(※1)。住宅の保有が、預貯金に比べ流動性が低いリスク性資産保有を阻害し、効果的な資産形成にマイナスになっているのではないだろうか。

次に、住宅を保有しなくても老後に資産が枯渇するリスクが高まるおそれがある。30歳代の単身世帯のうち、非持家に居住し、かつ将来にわたってマイホームを取得する考えはない世帯の割合は、2007年には13.8%であったが、2018年には32.4%に上昇した(※2)。持家率が低下することは、高齢になってからも家賃を支払い続けなければならない人たちが増加することを意味する。ただし、住宅を取得していても、長期の住宅ローンを負担している世帯では、老後もローン返済負担が続くことには留意が必要である。

住宅を取得してもしなくても、それぞれにリスクがある。中長期的には、中古住宅市場を活性化させるなど、住宅を保有してもリスク性資産の保有を阻害しないような環境作りが必要だが、目下のところは、金融機関等で提供されているツールを用いて、早期から自分自身のライフコースをシミュレーションし、資産形成を見直すというサイクルを繰り返すことにより、何のための資産形成なのか、その必要性を十分に認識することが重要である。

(※1)森駿介・菅谷幸一(2017)「家計における金融資産と土地・住宅資産の保有の関係」『大和総研調査季報』2017年春季号(Vol.26)
(※2)金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」

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執筆者紹介

政策調査部

研究員 中村 文香