中国:景気の大幅減速回避の政治的背景。死活的に重要な2022年

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2019年09月13日

米中摩擦が長期化・泥沼化するなか、中国経済への下振れ圧力が強まっている。2019年4月~6月の実質GDP成長率は前年同期比6.2%に低下したが、このままでは6%割れの可能性が高くなる。

景気を下支えする上で、やや長い視点でその効果が期待される、「双子の政策」と呼ばれているものがある。

1つが2019年1月23日付の「社会領域の公共サービスの不足の補強、弱点克服、質的向上の推進を強化し、強大な国内市場の形成を促進する方法」である。これは国家発展改革委員会など合計18の部署が合同で発表したもので、義務教育のバランスのとれた発展、貧困地区の医療衛生サービスの向上、母子健康サービスの強化、など27項目が重点に掲げられた。その中身は、学校建設や医療施設の建設、母子のための施設建設など、いわゆる「ハコモノ」の建設加速を地方政府が主導して行うものであり、対象期間は発表日から2022年までとなっている。

もう1つが2019年1月28日付で国家発展改革委員会が基本方針を発表した自動車と家電の販売促進策(補助金政策)である。自動車では、①老朽化した自動車の廃棄・買い替え、②農村のオート三輪車を廃棄し、3.5トン以下のトラックもしくは排気量1.6L以下の自動車に買い替える場合、に補助金が支給される。家電では老朽化した家電を省エネ家電・スマート家電に買い替えたり、新規購入することで補助金が支給される。対象は冷蔵庫、洗濯機、エアコン、テレビ、レンジフード、給湯器、コンロ、パソコンが想定されており、需要刺激効果が期待される。ただし、この政策は実施細則がまだ発表されていない。同政策は3年という期間限定であり、いつスタートするのかが注目されている。今年は中華人民共和国建国70周年の節目に当たり、10月1日の国慶節からのスタートであれば2022年9月末まで、2020年1月1日からのスタートであれば2022年末までが期限となる。

この双子の政策について、前者は、収益性が期待しにくい公共サービスの「ハコモノ」の増強は債務のさらなる増大と将来的な金融リスクを高めるという副作用を伴い、後者の補助金支給を中心とした消費刺激策には、需要の先食いとの批判が付きまとう。それでも2022年に向けてこうした政策が発動されるのは何故か?これは中国が政治的に極めて重要なイベントを迎えるからである。

2020年はGDP実質倍増計画の最終年である。中国共産党・政府は2020年のGDPを2010年比で実質2倍にすることを国民への公約としており、その達成には、2019年、2020年にそれぞれ6.1%強の実質成長が必要となる計算である。そろそろ成長率を下げ止めたいところであろう。

2021年は中国共産党結党100年である。当然のことながら同党による統治の正当性が盛んにアピールされることになる。

そして2022年は習近平総書記にとって死活的に重要な年となる。秋に5年に1度開催される中国共産党大会が予定されているためである。2018年3月の憲法改正により、国家主席・国家副主席の任期は撤廃された。習近平氏が終身国家主席となる道が作られたのである。しかし、共産党の役職には「67歳定年制」という内規がある。前回の党大会では69歳となっていた習近平総書記の盟友である王岐山氏は、中央委員にも選出されず、「平党員」のまま翌年3月に国家副主席に選出された。2022年秋には69歳となる習近平総書記にも同じことが起こり得るのだ。これを回避するには政治力を駆使して、内規の定年を引き上げるか、撤廃するしかない。こうした状況下で景気が大きく減速することは政治的に許されないのである。

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齋藤 尚登
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経済調査部

経済調査部長 齋藤 尚登