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米国企業経営者が考える「企業の目的」に大変化

株主至上主義の見直し、想定外の効果も

2019年09月05日

政策調査部 主任研究員 鈴木 裕

米国の大企業経営者の団体Business Roundtable(以下、BRT)から、2019年8月19日付で公表された声明、“Statement on the Purpose of a Corporation”(※1)は、企業の目的は何かを明らかにするものだ。1997年以来BRTは、「企業の第一の目的は株主(シェアホルダー)に奉仕することだ」とする株主至上主義を掲げてきた。新たな声明では、①顧客②従業員③納入業者④地域社会⑤株主を本質的なステークホルダーとし、これら全てに価値をもたらすことが企業の使命であるとしている。

これを、多くのステークホルダーを株主と同様に重視するととるか、株主に対して「あなただけが最も重要だとは考えない」というメッセージととるか、受け止め方は異なるだろう。BRTの声明に規範としての効果を認めるなら(おそらくそうはならない)、従業員の処遇・雇用や地域社会の安全・環境を優先的に考えた結果が利益の喪失だったとしても、それは企業の目的に沿ったものということになりかねない。株主にしてみれば、株主至上主義の下では当然の要求だった利益優先の経営を経営者に求めにくくなるかもしれない。アクティビスト株主の対企業キャンペーンが高水準で推移している中(※2)、利益を求める株主の声を煩わしく感じる経営者にとって、株主至上主義の終焉を言うBRTの声明は朗報だろう。

もう一つあり得る変化は、ESG関連の開示要求を経営側が拒絶しにくくなることだ。従業員の処遇・雇用に関するジェンダー間・エスニック間の平等や、地域社会の安全・環境への配慮に関する情報開示を労働団体・人権団体や環境団体から要求された場合に、利益や株価に関係が薄いとして開示の必要性を否定することは、もはやできないだろう。企業の目的が利益追求や株価引き上げだけにあるわけではなく、従業員や地域社会も企業にとって株主に劣らず重要だとBRTの声明は述べてしまっているからだ。

BRTの声明を歓迎する声は当然大きいようだが、これをVirtue-Signaling(「意識高い系」くらいの意味)と揶揄する見方もある。実際のところ、米国の企業経営は株主至上主義でさえなく、経営者至上主義だとも言える。1978年から2018年の間で、CEOの報酬は10倍以上に増えているが、株価指数のS&P500は8倍程度になったにすぎない。株主以上に経営者は報われていたということだ。同じ期間に従業員の賃金の伸びは、1.1倍ほどにとどまっている(※3)。従業員を大切なステークホルダーだとするBRTの声明に怪しさを感じないわけにはいかない。

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政策調査部
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