グローバル・マネーフローの変化後の変化
2019年08月14日
国庫短期証券は、政府の一時的な資金繰りなどのために発行される。2019年3月末の発行残高は97兆円余りで、7割強を海外の投資家が保有している(※1)。中長期の国債も海外投資家の保有が7%程度を占め、比率は上昇傾向にある。日本の多くの市場金利はマイナスであるのに、なぜ海外の投資家は日本の債券の保有を増やしているのか。その背景には各国の旺盛なドル需要が背景にある。
日本の経常収支は年間およそ20兆円の黒字であり、経常収支とほぼ同額が金融収支として海外の直接投資や証券投資に充てられている(※2)。国内での収益機会が限られ、海外へ活路を見出す投資が行われているとみられるが、そのためにはドルなどの外貨を調達しなければならない。だが、近年のドルは世界的にニーズが旺盛で、為替スワップで円と交換しようとしても、追加コストを払わなければ調達できない。追加コストは上昇傾向で、円を使ったドル調達コストは、3ヵ月物で2%台後半に達する。
ドルの出し手からすれば、円を借りると2%台後半の金利が受け取れ、それは米国の長期金利を上回る。同様にユーロを使ってドルを調達するコストも上昇しており、世界的にドルの需要は強い。米国の債券は相対的に高金利だが、ドルを保有する投資家はドル以外の資金をマイナス金利で調達できるため、ほぼ金利が付かなくても各国の債券を保有した方が有利なのである。
グローバル・マネーフローの変化は他にもある。米国が行った海外直接投資からの配当は、2018年にネットで7,000億ドル超と、税制改正に伴い2017年の7倍近くに増えた(※3)。いわゆるレパトリと呼ばれる、米国企業が海外に留保していた利益の還流である。還流した資金の一部は自社株買いに向かっているとみられ、S&P500指数を構成する企業群による自社株買いは、金額でも時価総額対比でも高水準で推移している。
また、米国投資家、米国以外の海外投資家の証券投資が、それぞれグロスの売却額と購入額が両建てで増えている(※4)。例えば米国以外の公的部門の対米投資は、米国債の売り越しが続く一方で、政府機関債の買い越しが続いているように、資産の中身を入れ替えている可能性がある。
こうしたグローバル・マネーフローの変化は、主要中銀のうちFRBだけが引き締め方向という環境のもとでの変化であった。FRBの政策スタンスが引き締め方向から緩和方向に変わったことで、変化後の変化として巻き戻しが起きるかもしれない。
(※1)日本銀行「資金循環統計」より。
(※2)日本銀行「国際収支統計」より。
(※3)米国商務省“International Transactions”より。
(※4)米国財務省“Treasury International Capital (TIC) System”より。
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