70歳の壁

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2019年07月08日

  • マネジメントコンサルティング部 主席コンサルタント 元秋 京子

人生100年時代と呼ばれる現在、かつて「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼ばれた年齢層に対するイメージは大きく変わり、定年を過ぎても心身ともに若々しく、元気に活動・活躍している人が増えている。彼ら・彼女らを見ていると、「守るべき高齢者」を一律に年齢で線引きし、制限を付して保護をすることが適切なのかと感じることがある。かえって本人の自立的な判断・行動を阻害することにならないだろうか。本人の尊厳と判断能力を考慮した柔軟なしくみを考えることはできないだろうか。

先日、筆者の母が貸金庫の利用申請をしようと窓口へ行ったところ、代理人の申請・同席が必要との回答を受け、筆者が休みを取って一緒に申請をすることがあった。金融機関により取扱いは異なるだろうが、70歳以上の場合に代理人の申請と審査が求められるケースが多いようだ。これは本人が認知症等になった場合に、口座が動かせなくなってしまうことを回避することが主な目的であるが、自立的に生活をしていると自負する母からすると、窓口での厳しい現実を目の当たりにし、誰かに頼らなければいけない身分であることに気づかされ、一抹の寂しさを感じているようであった。

55歳以上の男女を対象にした内閣府調査「高齢者の健康に関する意識調査(平成24年)」によれば、「一般的に支えられるべき高齢者とは何歳以上だと思うか」という質問に対し、回答の多い順に、75歳以上(28.7%)、80歳以上(26.7%)、70歳以上(18.1%)等となっている。一般的にイメージする「高齢者」と比較すると、「支えられるべき高齢者」はやや年齢層が高めであることがうかがえる。

高齢者の保護・リスク防止の観点等から、不動産や預貯金などの財産管理・運用については、70歳以上等の一定年齢を基準として、制限・制約を設定することは重要であるが、併せて、自身の力で自立的に生活をしたい高齢者やリスクをとって資産運用したい高齢者を支援できる、シンプルなしくみ・制度があると良いだろう。例えば、子供に頼りたくない高齢者や子供・身寄りのない高齢者で、自己の判断で財産の管理・運用等がしたい場合に、収入・財産・判断能力・健康等の審査要件を満たせば、有効期限付きで各金融機関等に対して統一的に適用できる認定証の発行や、法人が何らかの形で後ろ盾になるような制度である。認定証や信頼性の高い法人の後ろ盾があることで、前述の貸金庫の利用・リスクの高い金融商品の取引・不動産の賃貸等について、対象となる高齢者が自己の判断により申請・対応できるというものである。

委任状により代理人が契約手続等を行う制度や成年後見制度等は整備されているが、これは本人に代わって代理人・後見人が行う制度であり、本稿の目的とは異なるものである。強調したいのは、高齢者が直接・単身で手続・対応することによる心理的な効果である。高齢者の意志を尊重し、より責任と緊張感のある生き方を支える環境を整備することは、保護をすることと同様に重要ではないか。

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