どうすれば人々の満足度は高まるのか

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2019年06月06日

  • リサーチ本部 執行役員 リサーチ担当 鈴木 準

内閣府「国民生活に関する世論調査」によると、現在の生活に満足している人の割合は、データが得られる1960年代前半以降で現在が最も高い(2018年調査で74.7%)。ただ、今の生活に満足感があるとしても、今後の生活も「同じようなもの」と考えている人が6割を超え、「良くなっていく」と考えている人は1割程度にすぎない。

生活を良くするには、生産性や潜在成長率を上昇させる必要があるが、GDP成長率がかつてより低迷している現在の方が満足度が高いとしたら、当然のことながら満足度はGDPだけでは決まっていないということだ。実はGDPを重視している関係者ほど、その指標に限界があることも知っており、人々の幸福度をどう測るかという研究が盛んである。

これに関し、5月24日に内閣府から「満足度・生活の質に関する調査」に関する第1次報告書が発表された。ここ数年の政府の骨太方針では、幸福感など社会の豊かさ、満足度や生活の質を示すダッシュボード(指標群)を作成することが謳われている。報告書はその一環であり、我が国の総合主観満足度は平均で5.89点であるという。

示された総合主観満足度は、「現在の生活にどの程度満足しているか」について「全く満足していない」を0点、「非常に満足している」を10点として、性別・年齢・地域でウエイト付けして集計されたものである。調査で明らかにされたいくつかの極めて興味深い点について、どれだけ正しいかは別にして直感的に考えてみよう。

第一に、女性の社会参画が著しく遅れている中、どの年齢層も女性より男性の方が満足度が低い。改めて新しい時代の男性に関する活躍政策も求められているのかもしれない。第二に、年齢別では高齢層(60~89歳)の満足度が突出して高い。潤いある高齢期を送ることができる社会は素晴らしいが、引退層偏重型の社会保障制度は変える必要がある。第三に、「国土の均衡ある発展」の成果か、地域別や都市規模別で満足度の違いはほぼない。これが地方創生や補助金政策に与える示唆は深遠である。

第四に、3000万円までは世帯年収が高いほど満足度も高いが、満足度の上昇はそこで頭打ちになる。所得税の基礎控除が年収2500万円以上は認められないことになったが、高所得とは年収3000万円超を言うのだろう。それより下の層に重課すれば働くことへのディスインセンティブとなり、満足度を損なう恐れがある。第五に、学歴が高いと満足度が高いが、大学院修了でも総合主観満足度は6.07点にとどまる。専門性がある実践的な人物を現実社会は求めており、教育の質向上が課題だ。第六に、最も満足度の違いを生じさせている項目が健康状態である。予防政策は確かに重要だ。

そして第七に、社会とのつながりや趣味・生きがいが満足度に大きく影響している。同居の家族以外で困ったときに頼りになる人が5人以上いると、低所得であったり、不健康であったりしても満足度はさほど低くない。頼りになる人がいない人の3分の2は男性であり、中でも45~59歳男性に多いという。もっとも、頼りになる人がいなくても、ボランティア活動を行っている人の満足度は高い。他者とのかかわりがポイントという点は、ソーシャル・キャピタルの議論と共通する。

調査結果に対する以上の解釈には、多くの異論があるだろう。どうすれば人々の満足度が高まるのか、まだまだ明確にはなっていない。満足度や幸福度の測定可能性を高め、様々な知見からの議論を重ねてグリップの効いた因果関係をもつ政策を開発していくほかない。そのためのダッシュボードの作成は、政策のイノベーションと言ってよいだろう。

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鈴木 準
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