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中国の「債務のわな」とAIIB

2019年05月28日

政策調査部 主任研究員 神尾 篤史

経済の減速、米国との貿易戦争、過剰融資で新興国の返済が滞る「債務のわな」など、中国の動向に全世界が注目している。このような中で、中国が主導して設立したアジアインフラ投資銀行(AIIB)の年次総会が7月にルクセンブルクで開催される。会議のテーマは「協調と接続性(Cooperation and Connectivity)」である。アジアを中心として新興国に膨大なインフラ建設需要が存在することを念頭に置き、国・地域間の接続をよりスムーズにすることで経済・社会的便益を新興国にもたらすことを内容としている。

これまでの3年4か月のAIIBの活動を振り返ると、アジアだけでなく、欧州・南米・アフリカなど合計97か国・地域が加盟し、インフラプロジェクトの承認案件は39件、79億ドルに及ぶ(2019年5月時点)。1966年12月に発足したアジア開発銀行(ADB)の理事会で最初に承認された融資案件が1968年1月であったことを考えれば、非常に速いペースで案件を積み上げている。

AIIBはADBなどの国際金融機関とMOUを結び、当初は共同で案件に取り組むことが多く、昨年6月時点では60%程度が共同案件であった。2019年1月時点では共同案件が40%、単独案件が60%で徐々に単独での案件が増えてきているとされる。

しかし、承認案件は順調に積み上がっているが、実施(Implementation)までには至っていないようである。AIIBの2019年3月末の財務諸表では、純資産は196億ドル(うち、払込資本金193億ドル)であるが、貸出金は16億ドルにとどまる。一方で、現金と現金同等物は34億ドル、定期預金が105億ドルも積み上がっている。上述の貸出金とインフラプロジェクト承認案件額との間には時期に若干のずれは見られるが、承認案件額(79億ドル)に対して、実施フェーズにあるプロジェクト金額を表す貸出金は非常に小さく、未実施の案件が多いことを示している。そして、払込資本金の大半は事業に活かされず、現金等または定期預金として保有されている。このような財務状況は国際的な格付機関に付与されたトリプルAという最上位の格付評価として表れており、2019年5月に行われた初のドル建て債券の発行に際して、予定額の2倍弱に及ぶ応募につながったとも考えられる。

最後に、中国に対しては一帯一路でのインフラ建設において過剰な融資を行うことで、新興国を「債務のわな」に陥れているという国際的な批判がある。一帯一路の資金供給源は国家開発銀行、中国輸出入銀行、国営商業銀行などとされるが、案件ごとの詳細は明らかではないことが多い。中国財政省は債務の持続性を検証するための枠組みを作るとしているが、一帯一路に対する不透明感が払拭されるかどうかは現時点では判断が難しい。この点、AIIBは各案件についてプロジェクト文書を公表しており、融資概要・条件などを明らかにしている。これはクリーン(透明)というAIIBの融資基準に沿ったものであろう。また、開発に主眼を置くADBとは異なり、AIIBは銀行としての商業的な視点が色濃いことからも、貸し倒れは回避したいという考えもある。一帯一路の推進においては、AIIBのような活動の透明性が求められる。

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神尾 篤史

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