公的年金制度は得なのか? 損なのか?
2019年04月08日
公的年金制度は得なのか? 損なのか? 筆者は先日、『人生100年時代の年金戦略』(※1)の著者である田村正之氏(※2)と議論を交わした。田村氏とはかねて個人的にも親しくお付き合いしているだけに、お互い楽しくかつ率直な意見のやり取りになった。
田村氏は、個々人が公的年金を活用するかしないかを「選択できる機会」においては、ほとんどのケースで公的年金をより活用した方が(しない場合と比べて)得になることをもとに、「公的年金制度は得な制度だ」と思って活用した方がよいと主張した。
「選択できる機会」とは主に3つ。1つめは主にパート等で働く女性において130万円(または106万円)の壁を超えて厚生年金保険料を払って働くべきか否か、2つめは60歳を超えても厚生年金保険料を払って働くべきか否か、3つめは原則65歳の年金受給開始時期を前倒しするか遅らせるかである。このいずれについても、公的年金の受給額をより増やすように活用する(パート等でも60歳超でも厚生年金保険料を払って働く、年金受給開始時期はなるべく遅らせる)方がそうしない場合よりも純受給額(受給額-保険料)が多くなる可能性が高い。田村氏の著書は、こうした点についてかなりのパターンの例外を想定し具体的な試算も紹介した上で、ほとんどの人が当てはまるであろう『正解』を提示している。このため読者の悩みに答えを出す1冊となっている。個人としての年金活用策を知りたい方にはぜひご一読をお勧めしたい。
とはいえ現行制度を前提にした場合の個人の「お得な選択」と、制度そのものに対する評価はまた別の話だ。筆者は、現役世代は「公的年金制度は損な制度」だと認識した上で、今ある年金積立金を現在の高齢者のために使い切ってしまうのではなく、将来世代の給付財源に回せるよう、政府に厳しい目を向けるべきだと反論した。
日本の公的年金制度は、現在の高齢者の受給額の大部分を現在の現役世代の保険料で賄う「賦課方式」を基本としており、少子高齢化が進む中では、どうしても若い世代(後に生まれた世代)ほど負担に比して受給が少なくなる構図にある。その際、公的年金の積立金からの運用益は将来世代の年金の受給水準を下支えする役割を持つが、現在の年金受給者も含めて「マクロ経済スライド」によって年金の受給水準を切り下げていかないと、遠からず積立金が枯渇してしまう懸念がある。
結局、公的年金制度が得か損かについて結論は出なかったが、個々人においては公的年金制度をなるべく活用すべきであり、日本全体においては年金の受給水準を着実に切り下げていくべきだという主張にはお互い納得した。
今年、2019年には5年に一度の公的年金の財政検証が行われ、公的年金の将来見通しが改訂される。今年、こうした議論が随所で起こり、公的年金制度への理解が深まることを筆者は望んでいる。
(※1)田村正之『人生100年時代の年金戦略』、2018年11月、日本経済新聞出版社
(※2)日本経済新聞社編集委員兼紙面解説委員
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- 執筆者紹介
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金融調査部
主任研究員 是枝 俊悟
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