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「貯蓄から資産形成へ」の共通KPIは何にすべきか

2019年03月12日

森 駿介

周回遅れの感は否めないが、2018年6月の日本銀行による「資金循環統計」の改定について思い起こしたい。家計部門の保有する投資信託の数字が大きく改定され、2017年末の保有残高は109兆円から76兆円に下方修正がなされた。順調に上昇してきたと思われていた家計金融資産全体に占める投資信託保有残高の比率(2017年末)を計算すると、5.8%から4.1%に下方修正される形になる。これを受けて、「貯蓄から資産形成へ」という動きは実は進んでいなかった、という記事も多く見受けられた。

しかし、「貯蓄から資産形成へ」の達成度は、ポートフォリオに占める投信(もしくはリスク性資産)の比率のみで判断すべきだろうか。「国民の安定的な資産形成の促進」という理念に照らすと、保有残高だけでなく、「投信を少しでも保有している世帯の割合はどの程度か」という「普及度」の観点も成果指標(KPI)として注目したいところだ。

では、「貯蓄から資産形成へ」の旗振り役である金融庁はどのようなKPIを設定しているのだろうか。そこで、金融庁の政策評価書を見ると、施策評価の参考指標として、①金融事業者による「顧客本位の業務運営に関する原則」の採択数に加えて、②つみたてNISA等の口座数が設定されている(※1)。②については、「普及度」を一部表しているようにも思われるが、上記の両指標は金融庁の施策の直接的なアウトカム指標としての性質が強い。例えば、つみたてNISAは日本固有の制度であることから、②の指標をもとに、日本の家計の投資信託保有が他国と比べてどの程度進んでいるか等を検討することは難しい。

そこで、「普及度」を測定するKPI候補の一つとして、金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(以下、「世論調査」)の利用を推奨したい。この「世論調査」では、投資信託を含む各金融資産の保有世帯率を年次で確認できるためである。ただし、この調査から確認できる投信保有世帯率(二人以上世帯)は、2007年から2017年まで10%前後で横ばいとなっている。単身世帯では同比率がこの10年でやや低下しており、「貯蓄から資産形成へ」は「普及度」の観点からも残念ながら進んでいるとは言い難い(※2)。

現役世代を中心に資産形成が進んでいないことや長寿化に伴う「長生きリスク」に対する不安の高まりもあり、ここまで見てきた「国民の安定的な資産形成の促進」は官民挙げて取り組むべき重要課題だと言えるだろう。そのためにも、「貯蓄から資産形成へ」の実現に向け、まずは官民双方の成果指標とも言える「共通KPI」が適切に設定されることで、正確な現状把握やより良い処方箋の検討が期待されるところだ。

(※1)金融庁「平成29年度実績評価書」(平成30年7月)の施策Ⅱ-1「利用者の利便の向上に適う金融商品・サービスの提供を実現するための制度・環境整備と金融モニタリングの実施」の「参考指標」を確認。本来は、「測定指標」がKPIにあたるだろうが、定量的な目標値が示されていなかったため、ここでは「参考指標」を紹介している。
(※2)なお、2018年からは、「世論調査」の開示項目が一部変更され、各種分類別の保有世帯率も確認することが可能になった。一方で、2018年調査では、一部質問項目が変更されたため、2017年以前とのデータは不連続である。

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