「懸想文売り」から考えるスキルマッチングの課題
2019年03月11日
まだまだ寒い日が続くが、百花の魁である梅の花がそこここに見られるようになった。この季節の風物詩として、節分の京都の須賀神社では、梅の枝を肩に背負った「懸想文売り(けそうぶみうり)」が現れる。現在、懸想文は良縁祈願のお守りとして販売されているが、江戸時代の懸想文売りはラブレターの代筆業であり、主な担い手は貧窮した公家の人々であった。彼らは烏帽子(えぼし)に水干(すいかん)姿で、素性を知られないよう白い布で顔を覆っていた。いかに貧窮しているとはいえ、貴族がそのような仕事に手を出していることを知られてはならなかったのだろう。ただし、文字を書くことのできない人々に代わって、教養のある言い回しや美しい文字によってラブレターを書くニーズは高かったようだ。現代風に言えば、市場ニーズとスキルのマッチングが成功していたのである。
一方、現代の日本ではスキルのマッチングがうまくいっていないようだ。英国の人材紹介・派遣会社であるヘイズが英オックスフォード・エコノミクスと共同で行っている人材の需給効率調査研究「グローバル・スキル・インデックス」の2018年版によれば、日本は「人材ミスマッチ(Talent mismatch)」の項目で調査対象の33ヶ国・地域中最低ランクであった。企業が求めているスキルと、実際に求職者が持っているスキルが大きくかい離している状況にあるという。こうしたミスマッチの背景には、労働者が市場ニーズを把握できていないことや、技術進歩のスピードが速まる中、労働者のスキルアップが追い付いていないことがあるだろう。
このようなミスマッチを解消するための労働者側の重要なポイントとして、自身のスキルをよく見つめ直し、どのような分野に市場ニーズがあるのかを見極めることが挙げられよう。冒頭の懸想文売りの例では、貴族としての教養を切り売りしてお金に変えることは本意ではなかったかもしれないが、ビジネスの観点からは、自身の技能と市場のニーズの両方を理解して仕事に結び付けており、優れた労働者であったと考えることができよう。
最後に、ミスマッチに関して企業側の問題も加えておく。先述の調査では、日本の「専門性の高い業界における賃金圧力(Wage pressure in high-skill industries)」のポイントがきわめて低い。これは、人手不足が深刻な状況にあっても、他の業界と比較して賃金の上昇が遅れていることを示唆していると考えられる。他の業界よりも魅力的な賃金を提示できなければ、労働者がコストを払って専門性を身に付けることはないだろう。労働者のさらなるスキルアップを促すためには、インセンティブとなる高い賃金の確保も同時に行われる必要があるだろう。
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政策調査部
研究員 中村 文香
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