グローバルな株価暴落を受けた、2019年の日本経済の課題
2018年12月28日
2018年の年末、日本株は暴落した。グローバルな金融市場では、2019年の金融市場の行方に関する不透明感が急速に広がっている。
足下で金融市場の不透明感が強まる中で、日本経済は緩やかな回復軌道を辿っている。大和総研では、2019年のわが国の実質GDP(国内総生産)成長率を前年比+1.1%と予想している。日本経済は、海外経済の悪化を背景に外需寄与度が剥落し、在庫調整が継続することなどが悪材料となる一方で、消費増税を控えて政府が景気下支えの姿勢を強めていることや、原油安の進展などが好材料となり、緩やかな景気拡大を続ける見通しである。
他方で、アベノミクスが抱える問題点は、従来の「第1の矢」である「大胆な金融政策」というカンフル剤に頼り過ぎている点だ。
1962年に米国のケネディ大統領が残した「屋根を直すのは晴れた日に限る」という有名な言葉がある。この言葉を現在の日本に当てはめれば、アベノミクスの効果などから景気の良い今こそ、①労働、農業、医療・介護などの分野における、いわゆる「岩盤規制」を緩和し「第三の矢(成長戦略)」を強化、②社会保障制度の抜本的な改革を通じて財政規律を維持、といった、やっかいな課題に正面から取り組み、30~50年程度先の未来を見据えて、中長期的に持続可能(サステナブル)な成長基盤を整備することが肝要である。
第一に、「岩盤規制」の緩和という面では、今後、わが国が取り組むべき成長戦略の「宝の山」は労働市場改革である。
現在、日本のサービス業の労働生産性は米国の半分程度にすぎない。わが国ではサービス業が経済の7割程度を占めているため、仮に労働生産性を1割改善することができれば、名目GDP(国内総生産、産業計)は7%強(30兆円程度)、さらに労働生産性が米国並みに上昇する場合には、名目GDPが60%以上(260兆円弱)増加する計算となる。労働生産性の向上を実現するためには、外国人労働力の活用などを通じてダイバーシティ(多様性)を高め、イノベーション(技術革新)を加速させることがカギになるだろう。
第二に、今後、アベノミクスが取り組みを強化するべき課題として、財政再建が指摘できる。
最終的に財政再建の成否は「社会保障制度の改革を実現できるか否か」にかかっている。わが国の社会保障は「中福祉・低負担」から、徐々に「高福祉・低負担」の状態へと近付きつつある。今後は社会保障に関係する個々の改革の中身・工程をしっかりと示しつつ、制度の持続可能性にかかる不確実性を減らしていくことが不可欠である。
「大衆迎合主義(ポピュリズム)」に陥ることなく、「国民にとって耳の痛い構造改革」を果敢に断行して、持続可能な経済成長の基盤を強化することができるか?——まさしく、2019年は安倍政権の真価が問われる1年になるだろう。
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副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸